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あの人のお屋敷はどこでしょう?

 幕末から明治にかけての激動期、重要な役割を担った福井藩出身者がいます。今回のコラムは、そんな人たちがどこに住んでいたのか?がテーマです。

「[御城下之図]」の一部抜粋
図 「[御城下之図]」の一部抜粋(松平文庫A0143-21342, 当館保管)

 地図をクリック・タップすると、「デジタルアーカイブ福井」の城下絵図にジャンプして、拡大・縮小、見る場所の移動ができます。著名人のお屋敷地を探してみてください。(答えの画像も最後にあります。)

 

1. 福井県出身の唯一の総理大臣

岡田啓介の父、岡田喜藤太の屋敷
「御家中屋敷地絵図 中巻」(松平文庫A0143-00465, 当館保管) 一番右が岡田家。 「御家中屋敷地絵図」は、上中下の3巻の分冊で、屋敷地を1筆ごとに区分して、歴代居住者を書いたものです。

 海軍大臣を経て、唯一の福井県出身の内閣総理大臣と言えば?この人物は1934年7月から1936年3月まで総理大臣を務めたのですが、1936年2月26日、青年将校らによるクーデター(二・二六事件)で暗殺されそうになります。岡田啓介です。幕末期の城下絵図をみると、岡田啓介の父、岡田喜藤太(100石取)の屋敷地があります。字の向きが下向きになっているのは、玄関口が下(南)向きだからです。現在のスーパーマーケットの駐車場の中に相当し、彼の石碑は道路沿いに置かれています。

 

2. 岡田啓介と間違えて暗殺されてしまった義弟

松尾伝蔵の父、松尾新太郎の屋敷
「御家中屋敷地絵図 中巻」(松平文庫A0143-00465, 当館保管) 一番右が松尾新太郎家。上に「松尾伝蔵」とあるのは、松尾伝蔵の祖父。

 二・二六事件は、総理大臣・岡田啓介らの暗殺を狙ったもの。ところが、岡田啓介は暗殺されず、彼と誤認されて暗殺されたのは、首相官邸にいて、秘書官を務めていた岡田啓介の義弟・松尾伝蔵でした。松尾は岡田を慕って、無給で秘書官を務めていました。幕末期の城下絵図には、松尾伝蔵の父、松尾新太郎(切米23石3人扶持)の屋敷地が見えます。岡田啓介の父の屋敷地から100 m程南に下ったところにある、ご近所さんでした。子供のころから2人はよく遊んでいたのでしょうか。

 

3. 多くの英傑を教えた先生

吉田東篁の石碑

 城下絵図に名が載るような屋敷地を持たない家格でした(切米8石2人扶持)が、「学問心掛け宜(よろしき)」につき「其身一代」で10人扶持となります。京都から新たに崎門学を導入し、私塾を開いて、鈴木主税・橋本左内・由利公正らを輩出し、のち、明道館の助教・教授(福井県史)を歴任します。吉田悌蔵(東篁)(10人扶持)です。城下絵図では、松尾新太郎の区画の中に追記されています。現在は岡田啓介の石碑の横に吉田悌蔵の石碑がありますが、彼の屋敷地は岡田の屋敷地とは離れた場所にあったようです。

 

4. イチョウの精子を発見した植物学者

平瀬作五郎の父、平瀬儀作の屋敷
「御家中屋敷地絵図 中巻」(松平文庫A0143-00465, 当館保管) 一番右が平瀬家。

 2023年1~6月のNHKの連続ドラマ「らんまん」に登場し、主人公・槙野万太郎(モデルは牧野富太郎)の友人としてイチョウの精子を世界で初めて発見した植物学者の野宮朔太郎のモデルも福井の人物でした。 その名は平瀬作五郎。  城下絵図上では、父の平瀬儀作(切米17石4人扶持。地図では「儀次」)の屋敷地があります。松平春嶽によって福井藩に招かれた横井小楠は、熊本・福井を何度も行き来します。平瀬作五郎の父・平瀬儀作も、そのうち安政5年(1858)と文久3年(1863)の2回の熊本行きに随行しており、将来を嘱望されていた藩士だったようです。

 

5. 笠原良策と種痘の普及に努めた藩医

半井仲庵の屋敷
「御家中屋敷地絵図 中巻」(松平文庫A0143-00465, 当館保管) 左が半井家。

 町医者の笠原良策と協力して、種痘の普及に力を注いだ福井藩の藩医の屋敷地もこの地域にありました。150石5人扶持をもらい、江戸詰の御匙医師を長く務めた半井仲庵です。福井藩士の一般的な藩士なら、300石取に相当する400坪の屋敷地をあてがわれていたようです。半井仲庵と笠原良策の活動は、当館の紀要でもご覧いただけます。

 

おわりに

 福井藩の様々な「城下絵図」をながめたり、「御家中屋敷地絵図」をめくってみたりすると、あの著名人の先祖はここに住んでいたんだ!なんていう思わぬ発見があるかもしれません。江戸時代の福井まちなかバーチャル散歩をお楽しみください。

解答の図解答の図「[御城下之図]」一部抜粋のうえ加筆(松平文庫A0143-21342, 当館保管)

より詳しく知りたい方は

藩士の履歴をPDFファイルを使って検索できます⇒『福井文書館資料叢書』 9~21号「福井藩士履歴」

(2025年2月、山本政一郎)