くずし字に生命を吹き込む
福井県文書館では、平成16年(2004)度より古文書を翻刻した「資料叢書」を継続的に刊行しています。また、令和2年(2020)度には資料検索・閲覧システム「デジタルアーカイブ福井」と市民参加型の翻刻プラットフォーム「みんなで翻刻」との連携を開始し、新たな翻刻の取組も推進しています。
この「資料叢書」や「みんなで翻刻」で欠かせない作業が、くずし字などを活字にしていく「翻刻」です。活字化されることで古文書をはじめとする歴史資料が格段に読みやすくなり、さらに活字がデータ化されることで利便性が飛躍的に向上します。
展示では、「資料叢書」の刊行や「みんなで翻刻」との連携による当館の翻刻の取組について、翻刻元の資料とともに紹介します。
目次
開催期間:2026年1月23日(金曜日)~3月25日(水曜日)9時~17時
場所:福井県文書館閲覧室(入館無料)
◆関連イベント(1):ゆるっト「みんなで翻刻」
日時:2026年2月21日(土曜日)・3月12日(木曜日)、どちらも10時~11時
場所:文書館研修室
定員:(当日自由参加)
「みんなで翻刻」の先輩ユーザーと一緒に、くずし字の解読や文字の入力を体験していきます。無線LAN 対応機器とGoogle かX のアカウントがあれば、ご自身で操作しながら体験することができます。
◆関連イベント(2):「デジタルアーカイブ福井」使い方講座
日時:2026年2月21日(土曜日)・3月12日(木曜日)、どちらも11時~11時30分
場所:文書館研修室
定員:先着順、定員20名。申し込み
1. 翻刻ってなに?
翻刻とは(解説を開く)
たとえば『日本国語大辞典』(第二版)では「すでにある本や原稿を木版や活版で新たに起こし刊行すること。特に、写本、版本、外国の本などを木版、活版などで再製すること。翻印。」と説明されています。<
日本史学や日本文学では「くずし字などを活字にすること。また、したもの。」を同様に翻刻といい、資料を読み解くにも、引用するにも、紹介するにも、なにをするにも不可欠です。
歴史、文学といった分野、また古代、中世、近世、近現代といった時代などによって翻刻はルールが異なります。
どこまで原文を再現するか、仮名に濁点を付けるか、どこに句読点を打つか、これにより資料の読み方や解釈が変わってきます。一人ひとりの考え方やスタイルもあるでしょう。
一文字一文字の正解・不正解はあるけれど、活字でどう表現するかは絶対じゃない。それが日本史学や日本文学の翻刻です。
2. 福井県文書館資料叢書ができるまで
福井県文書館資料叢書とは(解説を開く)
平成17年(2005)以来、当館が継続的に刊行している資料集です。令和8年(2026)3月に刊行予定の新刊で22冊目になります。
この資料叢書は当館で収蔵している資料だけでなく、館外に所在する資料を含めた当県の歴史を解明するうえで重要な資料を対象として、翻刻しています。
翻刻は主として手作業で、はじめに資料の画像から文字を読み解き、ノートに書き起こしていきます。つぎにノートの文字を資料の画像で確認しながら、パソコンに打ち込んでいきます。これが従来の翻刻です。
資料叢書は冊子として刊行していることもあり、なによりも精確性が重要です。そのため、資料の画像で判読できなかった文字を校合(資料の原本や類本と照合)し、何度も校正を重ねていきます。
こうして完成した資料叢書には冊子版(A4判)と電子版(PDFファイル)があり、冊子版は当館閲覧室で無料配布、電子版は当館ウェブサイト内で無料公開しています(内容は同じです)。
2.1 資料→翻刻→入力→校正→刊行
資料叢書の底本(翻刻元)の一例です(資料叢書15『福井藩士履歴』7 子弟輩)。
2.2 資料→ 翻刻→入力→校正→刊行

資料の画像から文字を読み解き、ノートに書き起こしていきます。これまで、資料叢書は田原健子さん(元当館運営懇話会委員、元当館活字化ボランティア)、当館活字化ボランティア、当館職員によって翻刻されてきました。

資料を輪読しながら翻刻していく当館古文書読解講座参加者の有志によるボランティアです。資料叢書の一部は、当館職員および、この活字化ボランティアによって翻刻されています。読解講座は現在も月例で活動しています。お問い合わせは当館まで。
2.3 資料→翻刻→ 入力→校正→刊行

ノートの文字を当館職員が資料の画像で確認しながらパソコンに打ち込んでいきます。ここでは分担していますが、これも翻刻の一部です。
2.4 資料→翻刻→入力→ 校正→刊行

入力が完了したら、資料の画像で判読できなかった文字を校合(原本や類本と照合)し、校正を重ねていって完成です。
3.みんなで翻刻
みんなで翻刻とは(解説を開く)
みんなで翻刻は、国立歴史民俗博物館・東京大学地震研究所・京都大学古地震研究会が共同で運営している市民参加型のオンライン翻刻プラットフォームです。
はじまりは京都大学古地震研究会、その有志の研究グループによる遠隔地の研究者との共同翻刻のアイデアでした。
同会は資料を解読して地震をはじめとする自然災害についての研究を進めるため、平成24年(2012)4月に発足しました。発足から5年で13万字におよぶ資料が翻刻されましたが、同会は多分野の参加者で構成されており、翻刻できる文字数には限界があったため、遠隔地の研究者との共同翻刻が構想されました。
そして、そこにクラウドソーシングの手法が採り入れられて、同29年1月に「みんなで翻刻【地震史料】」が公開されました。
その後、令和元年(2019)7月のバージョン2へのリニューアル(地震史料以外への対象の拡大、AIによるくずし字文字認識機能の追加など)を経て、同7年8月にバージョン3へとリニューアル(ユーザーによるプロジェクトの登録、AIによる資料画像の全文翻刻の追加など)されています。
当館は、同2年8月にデジタルアーカイブ福井でみんなで翻刻と連携し、プロジェクト「デジタルアーカイブ福井の資料を翻刻」を開始しました。
みんなで翻刻少人数グループのご案内(解説を開く)
みんなで翻刻との連携を開始した翌年、令和4年(2022)の6月と9月、また同5年の6月に、みんなで翻刻の使い方講座を開催しました。
その講座から対面で疑問や質問を共有したり、相談したりしながら翻刻していく「みんなで翻刻」少人数翻刻グループが誕生し、令和4年10月以来、第2木曜日を定例日として月例で活動しています。
Wi-Fiでインターネットに接続できるパソコンがあれば、どなたでも参加できます。お問い合わせは当館まで。
3.1「みんなで翻刻」でくずし字の手習
「デジタルアーカイブ福井」で「みんなで翻刻」と連携している資料の一例です。これは三方郡世久見浦の枝浦食見(現在の若狭町世久見)の商家桜井市兵衛家で使用されていた、文字や単語を習うための手習本(手習の手本)です。
3.2 日記
足羽郡種池村(現在の福井市種池町)の庄屋坪川武兵衛が文久4年(1864)からつけはじめた日記です。ページにして400を超え、途中から次第に文字の崩れ方が激しくなっていきます。
3.3 献立
丹生郡朝宮村(現在の福井市朝宮町)の大庄屋(郡中惣代)岩堀門左衛門家の献立です。読めない文字があっても、たとえば献立なら食材や料理名など、歴史学以外の知識や経験を生かして見当をつけていくことができます。
3.4 検地帳
丹生郡玉川浦(現在の越前町玉川)の浦方文書で、慶長3年(1598)の検地帳を元文6年(1741)に書き写した写本をさらに文化11年(1814)に書き写した写本です。実際に使用されていたのでしょうか、付箋がたくさん貼ってあります。
3.5 歎願書
敦賀藩知事酒井忠経の歎願書です。小浜藩の支配所である敦賀港に関する伝達の混同や、藩域が敦賀郡の一部であることなどを理由に「敦賀藩」から「鞠山藩」への改称を願い出ています(この願いは聞き届けられ、翌3月23日に改称されました)。
3.6 武鑑
出版物である「県令集覧」(武鑑という大名や旗本の名鑑の一種)を一冊まるごと書き写した写本です。このような小型の冊子は半長帳や小横帳といいます。
デジタルアーカイブ福井やみんなで翻刻なら、小さな文字も自由に拡大することができます。
3.7 くずし字だけじゃない
福井藩士だった寺島知義(1815~1888)が明治時代に編さんした雑記です。古老を訪ね歩いて書き留めた過去の「記憶」から、あたらしい明治の時代の「記録」まで、福井の歴史が綴られています。
3.8 めざせ全文翻刻
福井藩主松平吉邦の命で編さんされた藩士各家の系図・由緒集です。全6冊のうち、1~3と惣目録は『福井市史』資料編に「諸士先祖之記(抄)」として翻刻されていますが、残る4・5は未翻刻のため、現在「みんなで翻刻」による全文翻刻をめざしています。
4. デジタルアーカイブ福井
デジタルアーカイブ福井はとは(解説を開く)
当館が運営している当県の地域資料の検索・閲覧システムです。
併設の県立図書館・県ふるさと文学館、および県立若狭図書学習センターをはじめ、県内の図書館・博物館・自治体・高校なども参加しており、当館で閲覧できる『福井県史』編さん事業(昭和53年(1978)~平成8年(1996))で調査・撮影された資料に加えて、参加機関が収蔵する資料も、その一部が検索・閲覧できるようになっています。
令和7年12月31日時点で、古文書・古典籍等、歴史的公文書、新聞、県報、広報写真等、行政刊行物、文学資料、人物文献、あわせて916,549件が登録されています。
5. みんなで翻刻プロジェクトの紹介
みんなで翻刻では、当館の「デジタルアーカイブ福井の資料を翻刻」を含む複数のプロジェクトが進行しています。
こんなプロジェクトもありますよ。これらはみんなで翻刻による公式プロジェクトです。
このほか、みんなで翻刻にはユーザープロジェクトがあり、各ユーザーも自由にプロジェクトを立ち上げることができます。
| みんなで翻刻プロジェクト一覧 | トップページです。 |
| デジタルアーカイブ福井の資料を翻刻 | 当館のページです。 |
| 翻刻!九州大学の書物たち | 九州大学大学院人文科学研究院によって、このプロジェクトの翻刻データなどを活用した「前近代日本-アジア関係資料デジタルアーカイブ」が構築されています。 |
| Gallicaの日本資料を翻刻! | 日本を飛び出して遠くフランス、その国立図書館のデジタルライブラリーで公開されている日本資料を翻刻するプロジェクトです。オンラインならではですね。 |
| あいおいニッセイ同和損保所蔵災害資料 | あいおいニッセイ同和損保所蔵災害資料は、旧同和火災海上保険の廣瀬鉞太郎氏によって収集された日本有数の災害資料群です。展覧会への資料の出品が、このプロジェクトの契機になっています。 |
| 伊那市×みんなで翻刻 | 令和6年(2024)度から、このプロジェクトの資料を対象とした「古文書読解コンテスト」が開催されています。令和6年度の第1回では、約4か月の期間中に約158万字が翻刻されました。 |
| 古文書読解コンテスト | (上記コンテストのページです) |
| 翻刻deかるたLOD | 高橋菜奈子さん(新潟大学学術情報部)により、このプロジェクトで翻刻されたデータを含めた「小倉百人一首LOD」が作成、公開されています。 |
| 小倉百人一首かるたデータのページ(LinkDataウェブサイト内) | |
| かるたLOD | |
| 関西大学の多彩な東アジア研究資料を翻刻! | 関西大学アジア・オープン・リサーチセンターによる東アジア関係資料をオープンにしていく取り組みの中で、みんなで翻刻に戦前の東アジアの映画関係資料と江戸時代の中国語関係資料が提供されています。 |
| 翻刻!草双紙の世界 | 「化物七段目」など、いくつかの資料は、このプロジェクトで翻刻されたデータをもとに書式を統一し、現代語訳などを追加したうえで、電子出版されています。 |
| 能登半島の資料を翻刻! | 翻刻を通じて、被災地および周辺地域の歴史資料の保全について考え、地域の歴史や文化を知ることで、災害からの復旧・復興の一助になればという思いで立ち上げられたプロジェクトです。 |
| 天保郷帳を翻刻! | 歴史的な地名のデータ化を目指して立ち上げられたプロジェクトです。当時の村々を抽出するため、場所にタグ付けできるみんなで翻刻の機能が活用されています。 |
| 翻刻!地震・災害史料 | みんなで翻刻の当初の目標は、東京大学地震研究所で所蔵されている資料114点の翻刻でした。開始から5か月で114点の翻刻は完了し、その2年2か月後には追加の資料381点の翻刻も完了しています。それでも、このように未翻刻の地震・災害資料はまだまだあって、いまも翻刻がつづけられています。 |












