（前略）
右北小山村江午之下刻着、郡奉行粕谷彦左衛門組木沢喜大夫
前日より参、段々様子を承り、宿割等も致置候、其節
早速熊谷小兵衛方江参申候者、味間野河原江百姓共
集申候、愈七郎右衛門家打崩可申沙汰仕由申候、其時小兵衛
差図ニ者、右集候百姓共江手を廻し毀候事存留候様に
申、其上ニ願等も有之候ハヽ聞届取扱為取可申趣を、
何卒手を廻し為申聞候様ニと有之、喜大夫承知仕罷
越候、其後兵粮相廻何茂認仕、偖喜大夫帰様々申宥候
得共不聞届、指留り候様ニ者相見へ不申候与申内、早鬨
声を上ケ押寄打毀音甚、其時速ニ人数触有之、追々
駈付候処、壁を落し柱共へ斧・抔を切込申候、百姓共胴簑
着、鉢巻頬かぶり仕、斧・・鉈・鎌・熊ノ手・鳶口・棒手々ニ提、七郎
右衛門家を取巻声を揚て毀、其中ニも囲炉裏ヘハ水を懸け
る者も有り、尤廻状之趣承候故か、七郎右衛門宅之儀者諸
道具を取隠し、立具縁板迄取ハづし置、百姓共口々に
諸道具等村之内へ預り不申哉、先庄屋方より一々改預り
申者之家共ニ打崩し、諸道具を取出焼可申抔と口々ニ
申候、併土蔵へは少も障不申候、是ハ御米を入置候故と

被存候、其時福井之人数を以様々宥め候処、百姓共大庄や
共之悪き仕方を聞せん為か、様々之悪口申す、我々か
喉をほし、其身ハ栄耀ニ長し、傾城を買、博奕を打、家作
を致し、諸道具を求、珍味を喰ひ抔、様々之悪口申候、
其節人数之中へ馬上ニ而熊谷氏始乗廻、色々下知在之、
先静り候得、我々か存分之通ニ致し為取可申抔と、口々
大音声ニ而制し候得者、百姓共福井御役人様方之様ニ
御目を被明候ハヽ、ケ様成儀者出来不申候、思召者難有
候得共存留候儀無之由申、色々制止候得者少しハ静り、
先河原へ引候得与申百姓も有之、河原表江引かと存候
処又々込返、様々制止候得者、中ニ者、今者御鉄炮を為御
打候得抔と申百姓も有之、私共渇へ死仕る身ニ候得者、
御鉄炮に当り死候事本望也抔と申百姓も有之、中々
静り候様者相見へ不申、然共人数を以口々下知候得者、
河原表へ漸々引取申、跡ニ続き下山氏・永田氏河
原へ被参、熊谷氏者少く跡ニ残、真柄村庄屋を招、今日
寄来百姓共、何村者か見知たる者も有之かと尋有、
庄屋答ニ、今日寄来百姓共一人も見知たる者無之、皆名