越前奇談怪談集(13)松岡の霊火

マット・マイヤー氏のイラストと現代語訳

画像:松岡の霊火
霊火 私、井上翼章(素良)はよく考えてみた。私の実家は、もとは松岡(永平寺町)にあった。父が幼少の頃、小雨がしとしと降る夜、九頭竜川の方を遠く見やると、たまに霊火が出ることがあった。手鞠ほどの大きさの火が、二、三あるいは五、七など、ゆるやかな風に吹かれるように行き来し、ゆらゆらと上下が定まることもなかった。遭遇する時は、たちまちにそれとわかった。夜がふけるにしたがい、次第に人家に寄ってきて、夜明け時になると屋敷境まで来るのを目の当たりにしたと、父はいつも語っていた。今、松岡の人に尋ねると、聞いたことはあるというだけで、実際に見た者はいないという。(以下略)

資料原本と翻刻文

原本画像を見る➤A0143-21215-009 「越前国古今名蹟考 巻之七 吉田郡」(松平文庫、当館保管)ウェブ公開画像なし

画像:松岡の霊火
●霊火
〇素良按するに、余か実家もと松岡に在、(中略)実父少弱の頃、小雨そほ降夜、大河の方をのそみ見れハ、時として霊火出る事あり、手鞠ほとなる火、或ハ二三、あるひハ五七ゆるやかなる風に吹るゝかことく、往来上下定る事なし、もし相遇時ハ倏ちわかる、夜の更るに従ひ、次第に近寄て、暁更に及てハ屋敷境まても来れるをまのあたり見ける由、常にかたれり、今、松岡の人に尋るに、聞及ひたるのミにて、遂に見たる者なしといへり、(以下略)