越前奇談怪談集(10)海上の怪異

マット・マイヤー氏のイラストと現代語訳

画像:海上の怪異
 井沢蟠龍の著『広益俗説弁 附篇』には「越前国金ヶ崎(敦賀市)には、雨の夜、海上に多くの船、城などが見え、輿に乗った人、騎馬の人が、浪の上に現れる」と載っている。
 北宋・伊川先生の著『朱子語類』には「人の気が、まだ尽きるべきでないときに、無理矢理に死んでしまうと、魂魄は帰る所がなくなってしまう。(以下略)」とある。金ヶ崎も南北朝時代の古戦場なので、これと同じだろうか。また「海市」(蜃気楼)ということもある。北宋・沈括の著『夢渓筆談』には「登州(山東省)の海中で時々、異様な気が立ち上る。宮殿や物見台、城の姫垣、人物、車馬、貴人などが、整然と連なっている様子を見ることができる」とある。(中略)金ヶ崎もこの類であろうか。

資料原本と翻刻文

原本画像を見る➤X0142-00346 「越前国名蹟考 巻之一 敦賀郡」(山内秋郎家文書、当館蔵)91コマ

画像:海上の怪異
俗説弁附篇云、越前金ケ埼ニハ、雨降ル夜ニハ海上ニ船多ク、城抔見エ、乗輿ノ人、騎馬ノ人、浪ノ上ニ顕ルト云、今案スルニ伊川先生云、人気未可尽、而強死スレハ、魂魄帰スル所ナシ、或人夜准上ニ往クニ、大勢ノ異体ノ人ヲ見ル、過キテ失セタリ、後ニ問ヘハ、昔人ノ戦場也ト云、是皆非命ニ死シ、冤ヲ啣ミ、恨ヲ抱キ、未気散セサル故也トアリ(朱子語類)、金ヶ埼モ古戦場ナレハ、右ト等シキ歟、但又海市ト云コトアリ、夢渓筆談云ク、登州海中時々有雲気、如宮室大観城堞人物車馬冠蓋、歴々不見、録異記云、益陽県、在長沙郡界、時見長沙城隍人馬形色、悉可審弁トアリ、恐ラクハ此類ナラムカ