越前奇談怪談集(8)行灯の油を舐める小児

マット・マイヤー氏のイラストと現代語訳

画像:行灯の油を舐める小児
 福井藩士・力丸某に二歳ほどの小児がいた。ある時、同家の乳母が、突然暇乞いして去った。早速、代わりを召し抱えたが、これも四、五日で暇を願って去った。代わりを探したが、これまた同様で、しばらくの間に五、六人も代わった。
 このため、力丸はあまりに不審に思い、何か理由があるのだろうと、物陰に隠れて様子をうかがうことにした。夜も更け、乳母もよく寝入ったところをうかがい、小児が乳母の懐を抜け出して、行灯の油をさもうまそうに舐めはじめた。さては日頃、乳母が恐れていたのはこれか、と小児に飛びかかって荒々しく捕えて引きすえたところ、小児はそのまま息絶えてしまった。どのような妖怪が小児と入れ替ったのか。奇怪なことである。

資料原本と翻刻文

原本画像を見る➤A0143-02073 「南越見聞雑記」(松平文庫、当館保管)24コマ

画像:行灯の油を舐める小児
一 力丸何某、二歳斗りの小児ありけるか、乳母、風と暇乞て行けり、早速代りの乳母を抱へたりしに、四五日有て暇を願て行ぬ、扨其代りの乳母を尋て置しか、是も又始の如く暫の内に乳母五六人も代りたり、依之余り不審に思ひ、子細こそあらめと、物陰に隠れ居て伺ひけるに、夜も更、乳母もよく寝入たるを伺ひ、此小児乳母か懐を抜出、行灯の油をさもうまそふになめたりけり、扨ハ日頃の乳母か恐れけるハ是成と、飛かゝり荒らかに捕へて引すへたりけれハ、小児は其儘息絶てけり、いか成妖怪の小児に入替りけるにや、奇怪の事也