越前奇談怪談集(4)東尋坊の悪霊

マット・マイヤー氏のイラストと現代語訳

画像:東尋坊の悪霊
  東尋坊池は安島浦(坂井市)の海岸にある。大きな岩は高く、断崖がそびえる様子は屏風を立てたようである。(中略)
 昔、平泉寺(勝山市)に東尋坊という僧がいた。力の強い悪僧で、僧たちはこの東尋坊を憎みうらむこと甚だしかった。ある時、僧たちがこの辺りに行楽に来たことがあった。東尋坊が酒に酔ったところを、側にいた法師がこの池へガバッと突き落とすと、東尋坊は、その法師と脇にいた稚児とを左右につかんで一緒に池に落ちていった。それでも、東尋坊の悪霊が怒って、たちまち空はかき曇り、震動し、雷雨となって人が大勢傷ついた。
 今でも、四月五日の平泉寺の神事には、東尋坊の悪霊がこの池から平泉寺に行くそうで、必ず暴風・豪雨となる。それゆえ、近国の渡海の船も、このことを考慮して海には出ないという。

資料原本と翻刻文

原本画像を見る➤A0143-21206 「越前地理指南」(松平文庫、当館保管)161-162コマ

画像:東尋坊の悪霊
一 東尋坊池、海岸にアリ、巌高ク、切岸聳て屏風を立たることく、(中略)、むかし、平泉寺ニ東尋坊と云僧アリ、強力悪僧にて、一山の衆徒等にくミ猜(そね)む事甚し、或時衆徒等、此辺逍遙遊覽せし事有しに、東尋坊酒に酔たる所を傍なる法師、此池へ岸波と突落しける時、東尋坊其僧と脇なる児を左右に爴て共に池に入、猶此悪霊怒て、忽に空かき曇り、震動雷雨して人数多損害す、今に至りても四月五日の平泉寺神事には、彼悪霊此池より平泉寺へゆく由ニて、必暴風甚雨せり、それ故近国渡海の船も此節を考て不出と云リ