越前奇談怪談集(3)妻に化けた大猫

マット・マイヤー氏のイラストと現代語訳

画像:妻に化けた大猫
 袋羽大権現碑(福井市) 俗に猫墓という。白山社の前にあり。銘「正保二年三月吉祥日 施主 川澄角平興勝」。
 承応頃(一六五二~五五)、川澄の妻が、いつしか二人に増え、動作からは本物と妖かしの区別がつかなかった。ある月の夕べ、宴の際に蠅が群がったところ、片方の妻の耳が動いたのを見て、川澄は隣の部屋にあった弓でこれを射殺した。すると、少しして、その妻は大猫の姿になったという。「影響録」という書物に載る話である。この猫を袋羽権現として祭ったといい、また一説に、袋羽は興勝の産土神であり、この神に祈祷して妖怪を払ったところから、神への感謝のために建てた碑ともいう。川澄は知行二〇〇石の藩士である。

資料原本と翻刻文

原本画像を見る➤A0143-21215-007 「越前国古今名蹟考 巻之五 足羽郡上」(松平文庫、当館保管)ウェブ公開画像なし

画像:妻に化けた大猫
● 袋羽大権現碑  俗に猫墓と云、白山社の前にあり
 銘 正保二年三月吉祥日   施主 川澄角平興勝
○ 承応の比、興勝の妻、いつの程よりか両人と成、動静起居真妖弁し難し、ある月ノ夕、酒宴の折節、蠅の群りたるに、一人の妻の耳の動きけるを見て、次の間に張設けたる弓にて射殺しけれハ、良久しうして大猫と成たりと云事、影響録に見えたり、此猫を袋羽権現と祭れり共、又一説にハ、袋羽ハ興勝の産土神にして、祈祷して妖魅を払ひ、奉賽の為建たる碑なりともいへり、興勝ハ二百石の士なり、(以下略)