今月のアーカイブ Archive of the Month

遺す。伝える。 -資料を未来へ-

土屋家の文書保存箱 福井県文書館月替展示2014.6
暖で雨に恵まれた日本の気候は資料の保存には良い環境ではありません。そのため、資料は温度や湿度の変化の少ない土蔵で保管されるなど、資料の保存については古くから注意が払われてきました。現存する資料は所蔵者による一定の選別を経て今日まで遺されたものですが、紙そのものの劣化や汚損などが原因でやむなく廃棄された資料も膨大な数にのぼるはずです。
今回の展示では6月9日の国際アーカイブズの日にちなみ、 資料の保存や管理に関する県内の古文書とともに、大切な資料を後世に伝えるための工夫について紹介します。

会期

平成26年5月23日(土)~6月25日(水) 文書館閲覧室

公開補修

平成26年6月7日(土) 11:00~16:00 文書館閲覧室
「阪井郡片川之図(甲号)」 1893年(整理中) 福井県文書館蔵「阪井郡片川之図(甲号)」 1893年(整理中) 福井県文書館蔵
シミ(紙魚)の食害によって痛んだ河川図を、今立産の手すき和紙(今立産コウゾ)と、小麦粉でんぷんから作った糊(正麩糊)を使って繕い(つくろい)を行います。
この手法は洋紙の補修や酸性紙でもろくなったもののの補強にも応用できます。
「劒大明神灯明料注文」 1497年(明応6) 福井県文書館蔵
「劒大明神灯明料注文」 -福井県文書館が所蔵する最古の資料-
1497年(明応6) 山内秋郎家文書(当館蔵) X0142-00034
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500年以上前に作成された文書館にある資料の中で最も古い資料です。
劒神社(越前町織田)で灯明に使う油代の 管理権の譲渡について書かれています。劒神社の坊院養躰院の隆尊という人物から真禅院へと権利が譲渡されたことや朝倉貞景(天澤様)が裏判(署名・花押)を加えてこのことを認めたことがわかります。
このように権利を証明する資料は古くから大切にされ、この資料のように巻子本に仕立てられて伝わったものもあります。
虫食いは少なく劣化の度合いも小さく、保存状態は良好で、適切に管理されてきたことがうかがえます。
大庄屋間で引き継がれた文書の目録 福井県文書館蔵
大庄屋間で引き継がれた文書の目録(部分) 1828年(文政11)
飯田広助家文書(当館寄託) G0024-02841
1828年(文政11)4月に鯖江藩領薮田組大庄屋から東俣組大庄屋彦治兵衛に引き継がれた書類が書き上げられています。
毎年作成される宗旨人別帳や割帳などは5か年分のみが引き継がれ、文書の保存や廃棄についての一定のめやすがあったことがわかります。
また、大庄屋の日々の実際の役務を記録した「御用日記」も文書とともに後任の大庄屋に引き継がれており、江戸時代の大庄屋の文書管理のようすがうかがえます。
【読み方】

一宗旨五人組 但文政七年申より子迄五ケ年分
 内
 宗旨帳九冊 五人組帳九冊 此分ハ別紙之通村々不足後より取調べ御渡可申候
一家数人別寄帳五ケ年分
一非人番帳 右同断
一村々家数人別横帳 右同断
一郡中組割并村々割帳 五ケ年分
 内
 文政七郡中割出帳 不足
一御用日記 五ケ年分
(後略)
「宝泉庵虫払田寄進状」1482年(文明14) 福井県文書館複製資料
中世の虫払い関係資料「宝泉庵虫払田寄進状」1482年(文明14)
梅田雅文家文書 G0004-00014
1482年(文明14)に宝泉庵が一切経の虫払いの費用をまかなうための田を福成寺に寄進した際の文書です。
虫払いは「虫干し」「曝涼」などともよばれ、宝物や経典などの虫害を防ぐ上で有効な処置です。
虫による食害を受けた資料  福井県文書館月替展示2014.6
虫による食害を受けた資料 「文政草稿見聞拾集記」
1828年(文政11) 矢尾真雄家文書(当館蔵) C0065-00863
大切に保存された資料でもシバンムシ(死番虫)やシミ(紙魚)の食害を受けることがあります。
当館では資料を館内に受け入れる際に、二酸化炭素で殺虫処理しています。
災害にあった資料 福井県文書館月替展示2014.6
災害にあった資料
市橋平吉家文書(当館蔵) G0041
これは水害にあった資料です。水に浸かったために紙が互いに固着して開くことができなくなってしまいました。
濡れた紙には、乾燥するにしたがってカビ、ゆがみ、固着などが発生します。さらに腐敗により紙の繊維が破壊されてしまうこともあります。
濡れてしまった資料は出来るだけ早く乾燥させることが大切です。
酸性紙の事例 福井県文書館月替展示2014.6
酸性紙の資料への対応「(水稲栽培試験成績、雑草防除、水稲新品種育成)」
1958年(昭和33) 関東東山農業試験場 40006328
インクのにじみ止め(サイズ剤)を定着させるため、硫酸アルミニウムを添加した紙を酸性紙といいます。硫酸アルミニウムは紙や大気中の水分と反応し、紙を構成する繊維(セルロース)を徐々に分解する作用を持っています。
そのため、紙によっては100年もたたないうちにボロボロに劣化してしまうものもあります。日本では戦前・戦後の昭和15~25年頃に多く用いられました。
劣化した紙の状態を元に戻すことはできませんが、 脱酸スプレーを使って酸化の進行を止めることはできます。
左の資料はページの周辺がこげ茶色に著しく変色し剥離しています。右側ページは脱酸処理を行って劣化の進行を止め、綴り穴部分を和紙で補強しています。
資料の修復法-つくろい- 福井県文書館月替展示2014.6
資料の補修法 -繕い- 左半分側のみ実施
くい裂きにした和紙で虫穴を修繕する方法です。
糊付けするまえのようす(2か所)がかわるようにしてあります。
リーフキャスティングに用いる和紙繊維のチップ
リーフキャスティングに用いる和紙繊維のチップ
リーフキャスティングのさいに水に溶かして使用します。越前市今立産の楮から作られています。
土屋豊孝家の文書保管箱
土屋豊孝家の文書保管箱
あわら市の土屋家の文書保管箱です。土屋家は江戸時代以降の1,200点以上の資料を伝えていますが、この箱を含む複数の箱で資料を保存していました。
右側の箱は湿気を吸収しやすく燃えにくい特性をもち、 資料の保存性に優れた桐材で作られています。さらに蓋には棹を通して運ぶための棹通し穴が設けられています。
左側の小箪笥の一部は桐材で作られ、鍵付き引出しを含む7つの引出しがついており 書簡や重要書類などを分類して保管するのに便利な構造となっています。
玉川区有文書の文書保管箱
玉川区有文書の文書保管箱
玉川区有文書(当館蔵)D0076
杉材で作られたこの箱には1598年(慶長3)の太閤検地帳の写しなど、玉川浦(越前町玉川)にとって重要な文書が保管されていました。
ふたには「村方諸書物入箱 玉川浦庄屋 久右衛門」などと記されており、庄屋が村の重要文書の管理を担っていたことがわかります。
国宝の「東寺百合文書」(京都府立総合資料館蔵)はかつて100個程度の桐箱に収められていました。箱による資料保存は虫害や散逸を防ぐための基本的な方法です。
当館では資料を館内に受け入れる際に、二酸化炭素で殺虫処理しています。

ポスター

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開館時間

開館時間  9:00~17:00
休館日   月曜日(祝日の場合は翌日)
      第4木曜日