Fukui Prefectural Archives

松平文庫テーマ展34

Matsudaira Bunko Theme Exhibition 34

概 要展示内容LINK

お城のあとが果樹園に!~松平試農場の記録と蔵書~

 明治から大正時代にかけて、福井城址に広大な農場があったことをご存じでしょうか。松平試農場は、最後の福井藩主・松平茂昭の子である松平康荘によって明治26年(1893)に設けられた試験農場です。試農場で栽培された作物は果樹、野菜類など多種多様ですが、特にりんごの栽培に重点をおき、「矮性樹立仕立法」という独自の仕立法を確立しました。大正10年(1921)には、本丸を県庁移設地として無償貸与することになり、試農場は細呂木村(現・あわら市)に移転。昭和31年(1956)には坂井農業高校(現・坂井高校)同窓会に譲渡され、64年の歴史に幕を下ろしました。
 本展示では、松平文庫の資料や坂井高校から寄贈された蔵書の一部を展示し、松平試農場の沿革とその功績を紹介します。

会 期

2021年6月25日(金)~8月25日(水) ※終了しました

会 場

福井県文書館閲覧室

展示内容

松平試農場創設の趣旨
「農事試験成績 第壱報(簿冊)」

1903年(明治36)「農事試験成績 第壱報(簿冊)」
坂井高等学校(松平試農場旧蔵)文書 C0130-00002

 明治36年に刊行された『農事試験成績第壱報』の原本となった簿冊で、緒言には松平康荘が試農場を創設した趣旨が書かれています。「薄志と雖も精神を農界に投じ、弱行と雖も微力を農業に貢献する」という康荘の力強い決意がうかがえます。

『農事試験成績 第壱報』
『農事試験成績 第壱報』

1903年(明治36)『農事試験成績 第壱報』
坂井高等学校(松平試農場旧蔵)文書 C0130-00001

 「麦ノ雪害ニ関スル調査」や、「柿樹ノ隔年結果性ニ関スル調査」など、試農場の創設から10年間の研究成果をまとめた277ページの冊子です。この年に大阪で開催された第5回内国勧業博覧会に出品され、一等賞を受賞しました。

松平試農場一覧
「松平試農場一覧」

1909年(明治42)「松平試農場一覧」 松平文庫(当館保管) A0143-02528

 明治42年9月、皇太子(後の大正天皇)の行啓の際、「松平試農場全図」とともに奉呈された概要書です。松平試農場の沿革から始まり、事業内容、建築物、耕地面積、栽培作物、園芸伝習所修業生の状況などが記載されています。

各種果樹栽培反別

1909年(明治42)「松平試農場一覧」 松平文庫(当館保管) A0143-02528

 松平試農場で栽培された果樹別の耕地面積が示されています。リンゴやモモなどで導入された「矮性樹立仕立法」は、樹高を低く抑えることで結実を促進し、作業の効率化にも寄与するもので、当時としては画期的な仕立法でした。

松平試農場のリンゴ園
「松平試農場関係写真 リンゴ園」

明治39年(1906)「松平試農場関係写真 リンゴ園」 松平文庫(当館保管) A0143-02539

園芸伝習所 教務日誌
「教務日記」

1907年~1910年(明治40~43)「教務日記」 松平文庫(当館保管) A0143-21630

 園芸伝習所における教務内容を記録した日誌です。午前中に学科、午後から実習というパターンが多いですが、剪定の時期には終日実習となる日も少なくありません。また、試農場以外の果樹園に出張することもあったようです。

明治43年(第4期生)教務日誌
「教務日記」

1910年(明治43)「教務日記」 松平文庫(当館保管) A0143-21630

 明治43年6月の日誌です。この時期はナシの袋掛け作業やユスラウメ、イチゴの収穫を行っていました。収穫したイチゴやグースベリーはジャムとして加工していたことがわかります。17日には害虫の駆除を行っています。

大礼記念農産品評会報告
『大正4年大礼記念農事功労者表彰・農産品評会報告』

1915年(大正4)『大正4年大礼記念農事功労者表彰・農産品評会報告』
松平文庫(当館保管) A0143-02554

 大正4年8月31日~9月4日にかけて開催された大礼記念農産品評会の報告書です。会期5日間の来場者数は3万人を超え、大盛況となりました。巻末には、県内の農事功労者150名と品評会入賞者300名の氏名が記載されています。

移転に関する要書綴
「移転ニ関スル要書綴」

1921年(大正10)「移転ニ関スル要書綴」
松平文庫(当館保管) A0143-02531

 本資料は大正10年3月に提出された現地担当者の委嘱伺い書です。右上に松平康荘の花押が見られます。
 起案者の山田惟正技師は、園芸伝習所の所長も務め、松平試農場の運営・教育において中心的な役割を担いました。

「移転工事中 山室農場日誌」
「移転工事中 山室農場日誌」

1921年(大正10)「移転工事中 山室農場日誌」 松平文庫(当館保管) A0143-21635

 大正10年9月1日から同年末までの日誌で、移転作業の様子が詳細に書かれています。この時代は自動車もなく、貨物列車や荷車で物品を運搬しました。福井から電柱5本を搬入したという記録もあり、当時の苦労がうかがえます。

大正4年の雑日記より
「雑日記」

1915年(大正4)「雑日記」 松平文庫(当館保管) A0143-21632

 桜の苗木を米国へ贈った返礼として、大正4年にハナミズキ60本が日本政府に寄贈されました。そのうち5本が松平試農場へ分配されたという記録です。ドッグウッドはハナミズキの英語名で、犬の皮膚病に効くとされていたことが由来です。

坂井高校前庭のハナミズキ
坂井高校前庭のハナミズキ

当館職員撮影

 試農場の移転に伴い、ハナミズキも山室に移植され、試農場閉鎖後は坂井農業高校に受け継がれてきました。当時の木は枯れてしまいましたが、原木から採った子孫樹が移植され、現在も坂井高校の生徒たちによって保存活動が行われています。

『草木六部耕種法』 佐藤信淵
『草木六部耕種法 壱』

1874年(明治7)『草木六部耕種法 壱』 坂井高等学校(松平試農場旧蔵)文書 C0130-00067

 江戸時代後期、経世家として名高い佐藤信淵が著した農書です。有用植物の利用対象を、根・幹・皮・葉・花・実の六部に分けて、それぞれに属する植物の栽培法を解説しています。全20巻16冊にわたり、登場する植物は約300種類です。

『農具便利論』 大蔵永常
『農具便利論 中』

年月日未詳『農具便利論 中』 坂井高等学校(松平試農場旧蔵)文書 C0130-00095

 江戸時代後期の農学者大蔵永常の主著。全国各地で使用される農具のうち、広く普及の価値ありと考えられるものを、細かく絵入りで説明しています。備中鍬、千歯扱、踏車など、歴史の教科書でおなじみの農具も多数紹介されています。

佐々木忠次郎(1857~1938)

 幕末の福井藩士・佐々木長淳(ながあつ)の長男。農務省技師を経て、理学博士となり、松平試農場では評議員を務めました。『日本農作物害虫篇』、『果樹害虫篇』など多くの著書を発表し、昆虫学・養蚕学の発展に貢献しました。現代の果樹園で行われる袋掛けも、忠次郎の研究に端を発しています。

『果樹害虫篇』
『果樹害虫篇 全』

1905年(明治38)『果樹害虫篇 全』 坂井高等学校(松平試農場旧蔵)文書 C0130-00190

 佐々木忠次郎の代表作。果樹によく発生する害虫について、その形態・発生時期・予防法・駆除法などを絵入りで簡潔にまとめています。展示部分はリンゴの害虫として知られる「リンゴワタムシ」について解説した部分です。

『THE FRUIT GROWER'S GUIDE』
『THE FRUIT GROWER'S GUIDE VOL.1』

年月日未詳『THE FRUIT GROWER'S GUIDE VOL.1』 坂井高等学校(松平試農場旧蔵)文書 C0130-00477

 イギリスのジョン・ライト(1836~1919)の代表作です。「果樹栽培者のガイド」というタイトルにふさわしく、栽培に適した気候や設備、害虫対策などの概論から始まり、果樹別の栽培方法を絵入りでわかりやすく解説しています。