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 第五章 大正期の産業・経済
   第一節 農業・水産業の展開
    二 地主制の後退
      地域の趨勢
 大正期における日本資本主義の独占段階への移行にともなって、農村社会の地主制の構成的比重がしだいに低下する。この際、とくに一九二〇年代前半の大正後期には、全国的に地主制後退の趨勢が顕在化し、地主・小作関係の動揺が醸し出される。
 その第一の指標として、全国の小作地率の推移は、大正九年(一九二〇)から十二年が四六・三〜四六・五パーセントで、一九二〇年代前半でほぼピークに達した。また五〇町歩以上の大地主戸数(北海道を除く)のピークは、八年の二四五一戸で、その後は下降の一途をたどる。一方、小作争議件数は、九年の四〇八件から翌十年には一六八〇件へと、四・一倍という大幅な急増ぶりをみせる。
 そこで、福井県下の小作地率の推移状況をみると、表207のとおりで、六年よりほぼ四六パーセント台となり、九年の四六・九パーセントでピークに達し、十四年以降は四五パーセント台となるが、このことは、福井県の地主制後退の趨勢を反映するとみてよい。
 そこで、こうした地主制後退にかかわる小作料低落の動向に触れることにする。実収小作料の実収高に対する割合を、大正元年と十年とで比較すると、概して全国諸府県とも、一部の県を除き、二〜五パーセント程度の低落が目立つ。福井県の場合、元年の五五・五パーセントが、十年には四七・七パーセントと、七・八パーセントのかなりの減額となる(栗原百寿『日本農業の基礎構造』)。この点、地域的格差のある小作争議件数の多寡にも規定されるところが大きく、同県で大正中期以降、小作料減免を求める小作争議の増加するのと、関連的に把握する必要があろう。
表207 福井県の自・小作地率(大正3〜昭和2年)

表207 福井県の自・小作地率(大正3〜昭和2年)



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