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 第四章 大正デモクラシーと県民
   第三節 政党政治の展開
    三 総選挙の実態
      二回の小選挙区
 第一四、一五回は、県下は五選挙区定員六人と一人増となり、有権者数四万一五一九とほぼ二倍近くになった。
 まず大正九年(一九二〇)の第一四回では、総選挙前分野が政友二、政友の友党正交倶楽部(維新会後身)二、憲政一で憲政の劣勢は覆うべくもなく、また政友会内閣のもと政友の優勢は免かれない状況であった。第一区(福井市)は、絹織物同業組合長でかねて地方問題にも尽力し、また国際労働会議にも列席して、名声を博していた松井の中立での再出馬が確実であり、暗に非政友も推していた。政友会は、シーメンス事件に連座して三井物産を退社し、特赦以後も実業界で活躍し、その財力を背景に原敬、野田卯太郎の推輓で九年に政友会に入党した福井市出身の山本条太郎を公認し、松井・山本の対決となった。選挙戦は熾烈をきわめ、個別訪問と選挙事務所の乱設、泥仕合的言論戦の展開となり金権選挙のモデルの様相を呈した。山本の選挙費用は当時の金で二〇万円を下らないといわれた。
 第二区(足羽・吉田・大野・今立郡)は、政友会から、池田が断念し柳原が公認で吉田郡を地盤に再出馬し、また濃越鉄道敷設問題もあり、前回善戦した大野郡の猪野毛が郡有権者大会で推され、四月の政友会支部総会直前に入党出馬した(県支部は非公認)。憲政は野尻弥重郎が今立郡を地盤に全郡一致の推挙のもと公認された。
 第三区(坂井郡)は、政友会で熊谷が再起を期すとともに、郡有権者有志大会で杉田の指名により野村勘左衛門が公認候補に推され、全郡一致の運動が企図された。野村は非政友とされていたが、今回政友会に入党し出馬した。熊谷・野村の同志討ちとなり、憲政は候補者を立てることができなかった。
 第四区(丹生・南条郡)は、元来憲政会の地盤であり、支部幹事会で丹生郡の高島七郎右衛門を推すことを決めた。しかしのちに彼は、高島茂平の強い要請により政友会に入党し、公認で出ることになった。このことは、政友会内閣が今立郡を分離し、丹生・南条二郡で一選挙区とした効果を如実に物語っており、憲政会は候補者を失った。
 第五区(嶺南四郡)は、政友会独壇場となり、三方郡の河崎と遠敷郡の荻野芳蔵が、公認をめぐって争ったが河崎が公認された。結果は、それぞれが公認した政友会五人、憲政会一人が当選し、政友会の圧勝であった(表192)。当時の新聞は、政友会全盛の原因は県民のいわゆる事大思想依頼主義に起因していると報じていた(『大阪朝日新聞』大9・5・15)。なお、第一区の山本と松井の票差はわずか五票で激戦のようすを物語っているが、選挙後松井側より山本の当選無効訴訟が提起され、数年間争われることになった。またこれ以降、山本は政友会県支部の看板として活躍することになり、翌十年九月には後援組織「福井倶楽部」が結成された。
 十三年五月の第一五回は、第二次護憲運動を背景に与党政友本党と護憲三派の対決となり、県下では憲政会と政友会が提携して政友本党と対決した。第一区は、山本・松井の間の和解がいったんは成立したが、最終的には再び両人の対決となった(資11 一―二〇一、二〇二)。松井は、四月十八日に発会式を挙げた実業同志会福井支部の支部長として同会公認で出馬し、今回も予想に違わず激戦であった。
 第二区は、憲政会の公認で谷口宇右衛門が吉田郡を根拠に出馬し、今回は政友派の加勢も見込まれた。政友本党は柳原が辞退し、杉田の縁故で吉田郡出身の東京で書籍商を営む高倉嘉夫が出馬した。また前回善戦した大野郡の猪野毛が普選断行を政見に中立で、勝山からは滞支二〇年の細野喜市が護憲を標榜して憲政会から出馬した。
 第三区は、再び全郡一致で政友本党の野村の推せんを決めた。一方、熊谷が坪江・剣岳村の有権者大会で推せんを得、前回の雪辱を期して政友本党より出馬することになり、野村と熊谷との同志討となった。
 第四区は土生が憲政会公認で武生の政友派の応援をも得て一月の補欠選挙の雪辱を期し、佐々木久二が丹生郡の県会議員の応援で政友会公認で出馬した。また、高島一郎が丹生民友会から純農民派の立場で、さらに前回の補欠選挙で当選した加藤勝康が、杉田の勧めで投票日直前に政友本党公認で出ることになった。
 第五区は憲政会公認の山口と政友本党公認の河崎との争いとなった。政友会から井崎清二の出馬が望まれたが実現せず、小林彦が中立で出馬した。このように県下で政友本党五人(うち公認四)、憲政会四人(うち公認三)、政友会公認二人、実業同志会公認一人、中立三人が出馬し、全般としては政友本党対護憲派の攻防が展開された。結果は政友本党二、政友会一、憲政会二、護憲系中立一と護憲派が四人当選し、政友本党の後退がみられた(表192)。また表194にあるごとく第二、四、五区における各候補の郡別得票数は各党地盤割を明らかに示している。

表194 第15回総選挙郡別得票数
表194 第15回総選挙郡別得票数



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