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 第三章 明治期の産業・経済
   第四節 鉄道敷設と公共事業
    二 水害と河川改修
      明治二十八・二十九・三十二年の大水害
 福井県下は、明治二十八、二十九の両年、豪雨による大水害に見舞われ、大きな被害をこうむった(第二章第一節二第65表)。
 二十八年七月下旬から八月初めにかけて、福井県では足羽・日野の両川の上流を中心に豪雨に見舞われた。『明治二十八年七・八月福井県水害景況』には、その模様をつぎのように記している。七月二十日土用入以来雨多クシテ殆ント虚日ナク恰モ微雨ヲ持続シタルモノヽ如ク……二十四日ニ至リ強風雨交々起リ夜半ヨリ翌二十五日マテ暴風激雨トナリ……二十八日午後三時頃ヨリ更ニ暴雨トナリ加フルニ夜ニ入リ西南ノ強風ヲ起シ其勢頗ル急激二十九日午前五時ニ至リ河水忽焉トシテ増加シ……連日降雨断続シ水量ノ増減定マラス更ニ水平ニ復スルノ模様ナキニ由リ人心恟々恐怖ニ沈タリシカ猶又八月五日ニ至リ強雨激シク九頭竜川ノ如キハ之カ為メ今回水災中ノ最高位ヲ占ムルニ至このように数日間にわたる出水の被災地域は広大で、河川の水位は八月七日になってようやく減水傾向になるという状態で、「九郡一市(遠敷・大飯ノ二郡ハ加ヘス)百三十一町村千百五十一大字ニ亘リ百二十九河川三湖」に及んだという。敦賀郡と南条郡でとくに被害が甚大で、両郡の死者・行方不明者は一三二人、建造物の流失・全壊・埋没は五二七戸で、それぞれ全体の七割以上を占めている。道路の決壊・破損は今立郡が二六三四か所・三万六七二三間、橋梁の流出も今立郡が二六一か所・二六二〇間、田の損害は坂井郡が四万八三二八石、畑の損害は足羽郡が八一万五二八五貫で、それぞれ第一を占めており、大河川の流域が大きな打撃をうけている。被害総額の一〇三八万五六八一円は、二十八年度の福井県予算額三二万九〇〇〇余円のじつに三一倍強にあたる。
写真121 明治28年水災景況電文

写真121 明治28年水災景況電文

 翌二十九年も六月末から九月にかけて、豪雨や台風があいついで襲来し、前年を上回る被害に見舞われた。なかでも八月末から九月上旬の豪雨は大洪水をもたらした。『明治二十九年八月三十一日九月七日福井県暴風雨水害景況』には、その様子がつぎのように記録されている。八月三十日朝来陰欝時々細雨アリ……午後五時ヨリ西南ノ風起リ同十時ヨリ漸次強風激雨トナリ、翌三十一日午前一時ニ至リ風ハ倍々暴烈ニ吹キ荒ミ雨ハ車軸ヲ乱スカ如ク、続キテ四時前後ハ殆ント其激烈ノ極度ニ達シ……殊ニ若狭国遠敷郡大飯郡三方郡ニ在テハ河川ノ水量一時ニ暴漲シ一大水害ヲ波及その後も陰晴定マリナク九月五日以来降雨連日ニ弥リ、而カモ六日ノ夜半ヨリ強雨豪注七日ニ至ルモ更ニ歇マス、同日黎明ヨリ足羽、日野、九頭竜ノ三大河川及ヒ其ノ他ノ河川大ニ増水シ、其出水ノ急遽ニシテ流勢ノ猛烈ナル忽焉トシテ岸ヲ噛ミ、激湍狂騰堤塘ヲ越ヘ或ハ欠壊田圃道路ニ暴漲シ人家ニ汎濫建造物、田畑、交通施設などの被害は県下全域の一市一一郡一五三町村一二一七大字に及んだ。八月三十一日の水害は、大飯、遠敷の両郡に、九月七日は、足羽、坂井、今立、南条の各郡に大被害をもたらした。福井市では、夜半に市東端の中島堤防が決壊、市域のほとんどが浸水し、浸水家屋は八六九一戸に達した。死者・行方不明者は、八月三十一日の暴風雨は遠敷郡が一一人、九月七日の分は今立郡が二五人、建造物の流失・全壊・埋没は、八月三十一日は大飯郡が一五四戸、九月七日は今立郡が三四九戸、道路の決壊・破損は、八月三十一日は大飯郡が五三八か所・一万六五八一間、九月七日は南条郡が五二〇か所・六万八三八七間、橋梁の流失は、八月三十一日は遠敷郡が五九五か所・一六一一間余、九月七日は南条郡が一七六か所・二九〇一間、田の損害は、八月三十一日は坂井郡が二万八六九六石、九月七日は坂井郡が九万一八七二石、畑の損害は、八月三十一日は大野郡が三三九五石・一六万三〇二貫、九月七日は今立郡が三二八三石・九四万四六七九貫で、それぞれ第一を占めている。被害総額は前年を上回る一〇八二万三三〇五円にのぼった。なお三十、三十一年にも豪雨があり、三十一年一月には福井市日ノ出下町の福井測候所が観測を開始している。
 三十二年には、八月中旬から九月中旬に三たび台風に見舞われた。福井測候所『九頭竜川筋出水予報調査』によると、とくに九月七日夜半に九州南部に襲来した台風は、福井県全域に豪雨をもたらし、二十九年九月につぐ大洪水となった。中角橋付近の水位で比較すると、二十八年七月三十日が二五・六尺、二十九年九月七日が二四・七尺であったのに対して、三十二年九月八日は二六尺に達している。
 二十八、二十九、三十二年の合計土木復旧工費は、県所属工費が一四五万余円、町村所属工費が三七万余円で、合計一八三万余円(うち国庫補助は一〇二万余円)にのぼる巨額なものであった。



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