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 第六章 幕末の動向
   第二節 若越諸藩の活動
    一 大野藩の天保改革
      「国産の仕法」
 明くれば天保元年(一八三〇)、初めて大野での正月を迎えた利忠は、一月に家中倹約令を出したあと、二月には町在へ倹約令を布達した。この町在倹約令は、町方へのものが五項目三七条、在方へのものが五項目三五条と条数は異なるもののほぼ同じ趣旨で、内容的には寛政十一年のものをいっそう厳しくしたものである。しかしより重要なのは、この倹約令が後年「寅年御国産之御仕法」とも呼ばれる、実質的な他所品差止め、すなわち国産奨励策であったことである。
 この倹約令の後に添付された「覚」によれば、大野に入って来る商品を四種類に分類したうえで、それぞれを次のように統制していることがしられる(「倹約筋申渡覚」斎藤寿々子家文書)。
 (1) すでに仕入れていれば盆までは売ってもよいが、その後はたとえ売れ残っても売買を禁止する物。
上茶、干物(ひじき・氷蒟蒻を除く)、輪島物などすべての器物、箪笥・長持・桶、仏壇・仏具(寺の誂えは除く)、絹以上の織物、上方の古手絹以上の品、木綿は二〇匁以上の品(上方の古手も木綿はよい)、花元結・引裂、鼻紙入れ・煙草入れ等の小道具、雛人形、表打木履、天鵞絨緒、輪島素麺
 (2) 今年限り仕入も商売も禁止する物、すでに仕入れていれば仕舞っておくべき物。
他所酒、菓子、鳥・生魚・焼魚・蒲鉾・薄塩魚(大野で獲れる鳥と川魚は除く)、味噌・醤油、柑子・水菓子、戸障子・小松簀、金銀鼈甲製の櫛・笄・簪、金銀などの贅沢品、他所からの絵師・植木屋・咄師・浄瑠璃語り・三味線弾き
 (3) 今年限り仕入を禁止し、これまで貯えたもので済ます物。
瀬戸物、元結、鬢付、紅白粉、歯磨、提灯、傘、扇・団扇、硯、煙管、糸・絹糸、麻糸針、箒、すいのふ、石板、釘、銅細工、線香・抹香
 (4)他所から買い入れてもよい物。
塩、塩魚・干魚(生魚は一切無用)、茶、油・薬種、染草、筆墨紙、蓑笠、郡内・八丈・海黄絹・木綿、鍋釜、剃刀、鋏・小刀、大工道具、畳表
 もともと大野で生産されない物は許し、贅沢品と考えられた物を禁止したのである。この他でも日常生活になくてはならない物は、願い出て指図に任すものとされた。とくに(3)の品目については、他の物も含めて他所の物より安い製品を、なるべく大野で生産できるように努力し、他に求めなくてもいいようにすべきものとされ、そのようになれば仕入を禁止し、永く独占的に営業を認める「株」にするといっている。このことが国産の奨励に結果したのである。



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