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 第五章 教育と地方文化
   第四節 庶民の生活
    三 通過儀礼
      裃着祝
 裃(上下)着祝について、野尻家の長男佐太郎の例を取りあげる(野尻源右衛門家文書)。五歳になり、嘉永三年(一八五〇)十一月十二日の吉日に、上下着祝の儀式が当家の本座敷で行われた。儀式は朝五ツ半時(九時頃)から始められた。座敷の正面には父源右衛門が、倅佐太郎はその前に、横座には母と姉と二人の祖母が、次の間には守女二人が控えている。佐太郎が、床の間に置かれた脇差・扇子・守・巾着を取り母に渡し、次いで恵方に進み拝礼する。裃を着せてもらい、守女と草履取二人に伴われて当家鎮守の稲荷社に参詣、次いで氏神白山社にも参詣した。帰宅してさらに仏壇に参り先祖に報告し、一応の儀式が終了した。昼は親類縁者一同を招き、夕方には懇意の者、出入りの者などを招いて酒盛りが行われた。当家は大庄屋ということもあり、前日の十一日の夕方に前祝、本祝は十二・十三日、十四日夕方は跡祝がもたれ酒盛りが行われた。十七日には、先の守女と草履取二人を伴って、袴着祝に訪れてくれた家々を御礼廻りに歩き、ついでに旦那寺の洞雲寺にも出向いた。



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