目次へ  前ページへ  次ページへ


 第五章 教育と地方文化
   第四節 庶民の生活
    一 庶民の倫理
      家訓の成立と徳目
 家としての制度が整ってくる十七世紀末頃から、豪農や商家の一部に子孫への訓戒のために家訓を残そうという風潮が強まった。表156は県内に残る代表的な家訓を年代順に並べたものである。こうして残された家訓には、厳しい現実をたくましく生きぬく庶民の知恵が随所に示されており、封建道徳に縛られつつも個々の倫理観が堂々と述べられている。支配思想を乗り越えるまでには至らないものの、そこには独特の処生観・人生観もうかがえる。
 家訓といっても書置・遺言状・遺訓あるいはただたんに「覚」とだけあるものもあり、その表題はもちろん形式・内容、成立の事情など様々である。表には比較的まとまったものをあげ、表題のいかんを問わず一応家訓として扱った。これら家訓は子孫への教訓が中心に述べられているが、そこには家(祖先)・家名・家督相続への思い、さらには農業経営、商理念、役職心得なども述べられており、時には女性観・教育観・処生観などもうかがえる。形式的には箇条書が多いが、なかには項目を何点か掲げて長文の解説を施したものもある。内容は身分によって異なるが、共通して掲げられている徳目は心身練磨、神仏信心、先祖供養、親孝行、家業精励などである。

表156 家訓・書置など一覧

表156 家訓・書置など一覧



目次へ  前ページへ  次ページへ