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 第二章 農村の変貌
   第三節 農業技術の発展と農書
    一 品種改良と肥料
      選種
写真30 「草木撰種録」

写真30 「草木撰種録」

 江戸時代の農業技術の進歩の一つは、作物の種をよく吟味し選ぶことであった。『清良記』には、種子を取る時期や保存の仕方について言及されており、元禄十年の『農業全書』では、種物を雌雄に区別し、稲穂も雌穂については「其穀しげく、茎も葉もしなやかに、節高からず見ゆるものなり」と述べ、雌穂を種にすることを勧めている。この方法は、陰陽説を取り入れたもので、今日から見れば何の根拠もないものではあるが、これ以後の多くの農書に採用され、様々な作物について雌種を選ぶということで、より優れた種子や苗の選択が行われるようになった。
 江戸時代後期に出版され、多くの人に読まれた『農稼業事』や『農業余話』でも稲の苗・穂などで雌雄の違いが力説されており、文政十一年に出版され、その後何度も版を重ねた『草木撰種録』には、多くの作物について雌雄の別が図示されている。
 若狭の伊藤正作も、雌種・雌穂を選ぶことの必要性を力説し、「農業蒙訓」の本文の冒頭にも、「百穀百種雌雄の種をえらふ事は種芸に渉る人かならず忽緒(諸)にすべからず、稲に限らず其損益格別也」と記し、さらに、穂先が二股に分かれているのが雌穂であり、三股に分かれているようなものはその中でも最上のもので、これを選んで、その穂先半分ほどを種にすれば、秋に多くの米が採れると述べている。
 こうして選んだ種を、少し余分に土蔵など湿気の少ないところに保存し、種を蒔く前にもう一度吟味し(種揃)、水に浸して浮くような種は取り去り、地質などにより薄蒔・厚蒔等種の量も加減し、肌肥・基肥等にも工夫を凝らし、虫や病の付かない方法等も種々模索されていた。



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