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 第二章 農村の変貌
   第一節 近世後期の農業と農民
    一 若越農業の概観
      農産物構成の概観
 『通史編5』第三章で指摘しているように、明治七年の「府県物産表」では敦賀県(越前・若狭)の物産は農林水産物と工産物の比は六一・三パーセントと三八・七パーセントで、工産物が全国平均(三一・一パーセント)より多い。すなわち工産物生産が発達していた。その状況の上で、ここでは農林水産物、とくに農産物について述べる。
 明治政府の勧農局が調査した「全国農産表」は明治九年以降が報告されているが、九年分は粗雑さがあるので十年分の農産表によって若越の農産物構成を概観しよう。表32は、普通農産物・特有農産物別の郡別集計で、それに能登・佐渡を除く北陸三か国と全国を添えた表である。
 まず、他国と比べると、全国より普通農産物の比率が高いが、これは北陸三か国も同様であり、とくに米の比率が高い。すなわち、北陸は米作への専門化が進んだ地帯である。しかしその北陸米作地帯の中では、若狭と越前は普通農産物が七〇パーセント台で加賀・越中・越後の八〇パーセント台より低く、米の比率も七〇パーセントに届かず右の三か国より低い。逆に若越は北陸地方の中で特有農産物の構成比が高く、したがって農産加工品とその原料生産の進んだ地域であったといえる。前述の工産物生産の発達とあわせ考えると、若越は加工工業が比較的発達していた地域である。
 さて、若越の主要な特有農産物は、生糸・繭(絹加工原料)と麻・実綿(布加工原料)および菜種(油加工原料)の三種であり、郡別にみると、それらの比重をいくらか違えながら生産している。そしてその上で郡によっては葉藍、製茶、葉烟草や楮皮、生蝋などを主要五品目に含んで、それぞれの地域的な特徴を示している。この農産表には水産物も記載されているので、敦賀郡や若狭では干魚などが主要五品目中に現れている。
 こうして、若越地方は全体としては米作が主で、あわせて絹関係・布関係および菜種油などの商品加工作物を作っていたのであり、加えて土地柄に合わせて葉烟草その他の特産物があり、海岸部では海産物の比重の高い営みが行われていたのである。



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