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 第四章 都市と交通の発達
   第一節 城下町とその構成
    四 城下町の生活
      大野の商家の一年
 一方、大野横町にあって大野藩の御用達や大野町年寄を勤めた沢屋は、大野町・菖蒲池村・中村などに高を所持していた地主であり、醸造業や質屋を営むほか、煙草・米・麦・大豆・真綿なども扱い、稲扱き・蚊帳の貸し出しもしていた。同家の十九世紀前半のものと思われる「年中行事」(宮澤秀和家文書)には、家業のほか、家まわりのことや、使用人の休みなどについても記されている。
 最初には、一年のことを考えて正月のうちにそれぞれ用意すること、年中火の用心と盗賊に対して油断しないことが書かれており、次に正月から順になすべきことが記されている。
 正月中に質に入っている裂織や鉄物を整理する、雪のあるうちに天気のよい日をみて帳面用の紙を拵える、雪が消え次第に居宅と土蔵の屋根を調べて風に対する手当てをする、土蔵の戸や窓の掃除もし、鼠の穴なども調べておく、春のうちに田畑を見て廻り、三年に一度くらいは印杭を打つ、春のうちに貸蚊屋を整えておくなど仕事のことに交じって、家来たちが在所の祭礼で半日休む場合も雨天であれば一泊させ翌朝飯前に帰るようにする、しかし、乾燥がひどい場合は夕暮には戻るようにさせると使用人の休みについて記されている。
 さらに、五月は節句前後に質流れの札を切る、ただし冬物の質流れについては九月節句前後に札を切る、六月になったら稲扱きの締直しをしておく、七月は盆の十七、八日から稲扱きの貸付をする、屋根の風に対する手当をする、盆が過ぎたら早速小作帳と蚊屋集帳を拵え置く、盆前後に相場をみて杪や炭を例年のとおりに買い入れる、八月中に割木を作る、八、九月中に値段をみて塩を買い置く、十月中に墓所に俵菰をかけて雪に対する手当をする、在郷帳や催促帳を拵え置く、夏中に茶紙袋を支度しておく、秋が終わったら鍬を改め鍛冶屋へ直しに出し、そのとき鍬の柄も付け替える、釣瓶と縄の支度をするなどと記されている。



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