目次へ  前ページへ  次ページへ


 第三章 近世の村と浦
   第四節 越前・若狭の浦々
     三 漁場と漁法
      磯付漁場と沖漁場
 近世の漁業の活動舞台は磯付と沖合の二つの漁場であった。磯付の漁場は、その海底地形の多様性により、そこに棲息する魚介類にも違いがあり、また投入する漁具と漁法もおのずとその地形と魚類に対応して、これまた違いがあった。
 沖合の漁場でも漁獲の対象が浮魚(回遊魚)か底魚か、また海底地形が岩礁性か泥砂性か、さらに同じ漁場で同じ魚を捕獲するのにも、釣漁と網漁との二つの異なった漁法があり、そのうえ時代差や食文化の違い、市場との距離等々により、捕獲対象の魚介類や漁具・漁法等はそれぞれ千差万別であった。
 早く開発されるのが磯漁場で、後に沖漁場に進出するのが一般的であった。磯付の漁場の経済性は高く、それだけ利権が早くから確立することが多く、磯付の浦方が排他的・独占的に前海の漁業権をもち、村内では有力者が強い利権を保持した。沖合の漁場は境界が引きにくいうえに、回遊魚も多いため、独占的・排他的利用はむずかしく、「入会」という複数の浦々の共同利用が多かった。
 しかし、「王余魚」などの底魚をとる底延縄や外字の漬木のように固定性がある漁具を使用する場合には、沖合といえどもまったく自由な入会というわけにはいかなかった。また、磯と沖の境界は必ずしも明確ではなく、例えば、若狭と越前丹生郡では海岸や海底の地形があまりにも大きく相違するので、若越の漁場を海岸から同一距離で磯・沖の区分をすることはできない。ただ、隣接する若越両国の沖漁は、相互に関連しながら早くも近世初期に成立をみた。若越の沖漁は全国的にも著しい先進性をもっていたことになる。



目次へ  前ページへ  次ページへ