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 第二章 藩制の成立
   第三節 藩政機構と家臣団
     二 諸藩の藩政機構
      役成起請文
 藩士が新しく役職に就任すると、昇任であると臨時であるとを問わず、忠実に任務を遂行することを神仏に誓う血判を押した起請文(誓詞)を提出しなければならなかった。幕府でも大老以下提出しており、福井藩でも家老から女中に至るすべての者が起請している。起請の儀式は、「奉行」・目付・郡奉行・作事奉行・勘定奉行が家老中の面前で血判を押すことなどとされているのをみると、役職によって異なっていたようである(「御用諸式目  」松平文庫 資3)。
 この起請文の前書で誓約の内容、すなわちその役職に求められた規範や職掌が知れるが、総じて第一条で藩主の「御為を第一」と心得、「後ろ暗い」ことは決してしないことを誓い、第二条以下でその職に固有のことに触れるのが共通している。例えば小浜藩の町奉行(二人)は、第二条以下で何事も二人で相談し、たとえ二人の仲が悪くても公用向きのことは協力すること、何事も家老などと相談すること、なにか良いことを思い付いたら申し出ること、百姓町人から菓子・肴・野菜のほかは、いっさい音信を受け取らないことなどを誓約している。事に当たって独断が戒められ、私情を交えない、公平な裁きが期待されているのである(酒井家文書)。
 大名の邸宅は、政務を行う表方と、私生活の場である奥向が厳格に区分されていたが、表と奥の間に大名が起居する中奥があり、中奥と奥の界が錠前口によって隔てられていた。福井藩の錠前番の起請文によれば、錠前口より出入する者を厳しく監視すること、女中に対し猥りがましいことをせず手紙の取次にも注意を払うこと、広敷のことについて表方での善悪の評判は伝えるが表方の諸事取り沙汰はしないとある。他方奥女中は、奥向のことを口外しないこと、政治向きのことを取り次がないこと、朋輩の陰口をきいたり「好色かましき」ことをせぬこと、心掛けの悪い者に遠慮なく忠告することを誓っている(松平文庫)。
写真69 福井藩奥女中起請文

写真69 福井藩奥女中起請文

 もともと起請文は自ら書いて血判を押し、個人として提出するのが建前であったが、徐々に形式化することもみられ、とくに下級役人の場合は、役職ごとに同じ起請文に紙を貼り継いで、署名と血判のみ書き継いでいくようになった。このようなものを書継起請文といっている。松平文庫には、署名のない、つまり未使用の起請文がかなり残っており、文章そのものも右筆あたりが書き、用意しておくようになったことをうかがわせる。



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