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 第四章 高度産業社会への胎動
   第一節 県政と行財政整備
    三 町村合併の促進
      市制施行をめぐる混乱
 県の試案では、今立郡鯖江町、中河村、片上村、丹生郡豊村の四か町村合併(鯖江中学校ブロック)と今立郡神明町、丹生郡立待村、吉川村の三か町村合併(中央中学校ブロック)であったが、鯖江町は市制施行を目標として関係町村に働きかけた。一九五四年(昭和二九)九月二〇日までは人口三万人以上でも市制施行が認められるため、このさい市制をしくべきとの意見が関係町村の間でも強まり、県は市制施行の方針で調整を行い、関係町村は市制参加の意志を決定した。県は五四年九月一日に関係町村代表者(町村長、ならびに正副議長)を招集して協議し、市の名称を鯖江市とすることを決定したが、合併の期日と市役所の位置については決定をみなかった(『福井新聞』54・9・11)。
写真71 鯖江市制に反対する人びと

写真71 鯖江市制に反対する人びと

 五四年九月一二日に第二回の代表者会議で市役所の位置をめぐって意見が対立した。鯖江町、中河村、豊村は市役所の位置を鯖江町に定めるべきと主張し、神明町、立待村、吉川村、片上村は新市の市名は無条件で鯖江市とするのだから、市役所の位置は神明町地籍に定めるべきであると主張した。市庁舎の位置をめぐる両ブロックの対立は鯖江市制の申請の手続きの後も続き、混乱を深めた(『福井新聞』54・12・23)。鯖江町、中河村、豊村は市庁舎問題が解決しないかぎり合併から離脱すべきだとして、五五年一月六日にはこれらの町村の代表者が県へ陳情デモを行った(『福井新聞』55・1・7)。一月一三日には、鯖江町長、中河村長、豊村長が合併処分執行停止命令申請の行政訴訟を福井地方裁判所に提起した。福井地方裁判所民事部は一四日、福井県知事に対し「鯖江市を設置する旨決定した処分の執行を停止せよ」との決定を下した。その理由は、鯖江市となる予定の地域が市街地の戸数や住民の就業状況の面で、地方自治法に定める市となるべき要件を備えていないということであった。
 しかし、同じ一四日に、内閣総理大臣はこの問題に対しただちに異議陳述書を提出し、当該行政処分の執行を停止すべきではないと述べた。翌一五日に福井地方裁判所は「行政事件訴訟特例法」の規定にもとづき、陳述書の趣旨を尊重してさきの行政処分執行停止の決定を取り消した。これにより、鯖江市はこの日発足することになった。この事例は、行政訴訟にまで発展し総理大臣の異議権行使によってようやく新市が発足した事例として、当時全国的注目を集めた(資12下 八四、『福井新聞』55・1・16)。



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