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第六章 中世後期の宗教と文化
   第二節 仏教各宗派の形成と動向
    二 禅宗諸派の展開
      若狭における曹洞禅の展開と武田氏・在地武士
 若狭における曹洞禅の展開は、越前の願成寺(武生市土山町)から進出してきた常在院(三方町田上・の系統、同じく願成寺から盛景寺(武生市春日野町)を経て若狭へ進出してきた峨山・通幻・芳庵派と、永建寺(敦賀市松島町)・永厳寺(敦賀市金ケ崎町)から進出してきた明峰派、また峨山・実峰派の向陽寺(三方町藤井)、慈眼寺系統の天真派の展開が主なものであるといえる。外護者の関係でいうと、武田氏および在地で力をもってきたその家臣の外護を受けて展開したといえる。
写真290 三方郡向陽寺(三方町藤井)

写真290 三方郡向陽寺(三方町藤井)

 まず、実峰派の大統一祐が向陽寺を明徳二年(一三九一)に建立し、若狭最初の曹洞宗寺院となり、のちの永禄年間(一五五八〜七〇)ごろに武田氏の重臣で大倉見城主であった熊谷氏の外護を受けたといわれている。ついで大統の弟子の伝芳良授が伝芳院(三方町相田)を応永十七年に建立している。
 願成寺開山の芳庵の弟子の竜室道泉が応永二年に常在院(三方町田上)を建立している。開基は飯河氏とも伝えられる。この竜室の門弟の大円宗智は応永二十二年に神通寺(小浜市遠敷)を開創している。開基は武田氏の重臣内藤下総守と伝え、彼の位牌所ともなっているが(資2 尊経閣文庫所蔵文書五〇号)、この内藤下総守は十六世紀前半の人物である。また常在院開山竜室の法孫にあたる白室正圭(竜室―伝室―為天―一峰―白室と次第)は大永元年に清月寺(上中町杉山)を開山しており、開基は内藤佐渡守であるという。さらに常在院六世の自天寿珍が洞源寺(小浜市生守)を開山し、同寺三世の忍翁誠俊は竜雲寺(小浜市奈胡)を開いている。なお竜雲寺の成立を応永七年とし、外護者を内藤筑前守とする説もあるが、内藤氏は武田氏重臣で時代が合わない。
 ついで願成寺・盛景寺(武生市春日野町)からの展開についてみてみよう。まず盛景寺三世の亀舜祖卜が臥竜院(三方町三方)を建立しているが、外護者は熊谷大膳直行(直之)であるとされ、盛景寺四世の門弟の関翁鉄州は瑞林寺(美浜町早瀬)を武田氏の家臣粟屋越中守の外護を得て開創している。また臥竜院七世才庵俊藝の弟子の聯山祖芳は、文亀二年に武田元信の外護により仏国寺を開いている。さらに、やはり臥竜院七世の弟子の中巖宗恕は武田元光の外護を得て大永元年に発心寺を開山している。なお両寺の開山は兄弟弟子の関係にあるが、のちに発心寺は仏国寺の本寺となっている。盛景寺八世の機山祖全は徳賞寺(美浜町佐柿)を開き、やはり武田氏の重臣であった粟屋勝久の外護を得ている。粟屋勝久は永禄六年から十二年にかけて武田氏に背き、武田氏から出兵依頼を受けた朝倉氏と戦い、国吉城を守り抜いている。したがって、同寺の建立はその永禄年間ごろのことであろう。
 次に敦賀の永建寺・永厳寺の門派である明峰派の展開についてみることにする。永厳寺八世大通の弟子の大功文政が竜泉寺(小浜市新保)を天文十年に開いている。外護者は武田信高であったとされ、竜泉寺二世の大輪新巨は天文二年に霊沢寺(小浜市大谷)を開山しており、開基は粟屋元行であったとする。また竜泉寺四世の懐州自探は天文二十三年に霄雲寺(小浜市大谷)を開創している。開基は元行の弟の粟屋勝昭であると伝えている。
写真291 遠敷郡諦応寺(上中町安賀里)

写真291 遠敷郡諦応寺(上中町安賀里)

 天真派の展開もみられる。天真派のなかの英仲派は丹波や備後に展開したが、英仲派の順応慶随が諦応寺(上中町安賀里)を開いており、その年代は文亀元年のこととされる(「若狭郡県志」)。さらに同寺四世の明室存察が興禅寺(小浜市東相生)を禅寺に改宗しており、宝徳二年(一四五〇)に開創されたときは天台宗であったが明応五年に曹洞宗に改宗されたとされる。外護者としては、武田氏の家臣である寺井日向守の名が伝えられている。
 また天真派のなかの快翁派は伊賀に展開した派であるが、同派の竹翁明三は大光寺(小浜市口田縄)を開創している。文明元年のことであり、武田氏の重臣大塩吉信の外護を得ている。大光寺三世の助山文佐は海元寺(大飯町父子)を開山しており、外護者は武田氏の被官で石山城主であった武藤上野介(友益)で、開創年代は永禄二年とされる。なお天文二年とする説もある。
 以上みてきたように、若狭の曹洞宗は越前から展開し、武田氏やその家臣・被官であった在地の勢力に受容されて展開したが、そればかりでなく、宗派独自の力も有していたと考えられる。「永建寺衆僧并末寺戒臘帳」をみると、大永元年以降毎年多数の得度者を出しており(資8 永建寺文書一四号)、戦国の世の中で門派や寺院を維持・経営していった力のようなものがうかがわれる。



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