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 第一章 武家政権の成立と荘園・国衙領
   第六節 荘と浦の変化
     三 女性の御家人・名主
      家内は後家進退
 妻と夫が家族生活のなかでどのような役割を果たしていたのかをうかがわせてくれる例として、三方郡常神浦の刀家の場合が挙げられよう。正和五年(一三一六)以前に刀のs(国清)は惣領の忠国に「蓮昇之跡所務」を譲り、妻(忠国にとっては継母)には「家内財宝」を、娘の乙王女(忠国の異母姉妹)には大船一艘・銭貨七〇貫文・米一五〇石・家屋・山などを譲っていた。正和五年に乙王女は、蓮昇の死後に忠国が後家と乙王女に譲与されていた「家内財宝以下遺物」を押領したとして訴えている(資8 大音正和家文書三四・三五号)。惣領の忠国が父親から譲与された「跡所務」とは、刀職・沙汰人職・名主職・網の村君職など、いわば対外的・公的な職が想定されるであろう。これに対し、「家内に於ては後家進退」とあるように後家は対内的・私的な動産を中心とする財産を譲与されており、具体的には乙王女に与えられたような財産を支配していたものと考えられる。これは単純化していえば、夫が家の外における公的な機能を果たし、妻が家の内の私的な部分を取り仕切っていたからであろう。妻が家内支配を担うことにより「家内財宝」に拠って自立性を保っていることを確認することができるが、同時に公的世界から退けられつつあることも注意しておかなければならない。



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