目次へ  前ページへ  次ページへ


 第六章 「地方の時代」の諸問題
  第二節 諸産業の展開
    四 石油危機下の工業と減量経営
      多角的事業展開
 この期の企業経営の今一つの特徴は多角的な事業展開の進展である。別会社を組織することにより事業展開を進めるいわゆる「分社化」にはおよそ二つの方向がある。一方は、企業自身の新事業への展開のために既存部門や不採算部門を切り離して別会社として存続させたり、余剰人員の受け皿として新会社を設立する、いわば合理化の一環として行われる後向きの「分社化」であり、他方は、戦略的事業展開を目的として子会社を設立したり他企業とともに合弁事業を行う、いわば前向きの「分社化」である。両社をせつ然と区別することは困難であるが、すでに一九六〇年代からこうした「分社化」を利用した事業展開は進んでおり、勝山兄弟を一例としてあげると、倉レの人絹賃織部門を切り離して設立した鹿谷繊維は前者、ニット部門の拡大を目的として設立されたケイテー・ニットは後者の例に相当した。第一次石油危機後、ほぼすべての主要企業で「分社化」は進められた。成功例、失敗例ともに多数存在し、これを例示する余裕はないが、少なくともこれが親企業本体のスリム化と高付加価値事業への展開を進めるうえで重要な意味をもったことは明らかであった。
 また、こうした多角的事業展開の一環に、県内企業の海外事業への進出がある。県内企業の海外事業展開は、六二年八月、酒伊繊維工業が東レ、三井物産と提携してセイロンにナイロン織物の染色加工を中心とする合弁企業を設立したのが最初といわれている(『福井経済』74・5)。その後、六〇年代後半から台湾、韓国、東南アジア、南北アメリカを中心に、合弁企業の設立があいつぐようになった。こうした海外での事業展開は、(1)労働集約部門のNIES諸国への移転、(2)円高や貿易摩擦を背景とする工場の現地移転、(3)アメリカ、ヨーロッパを中心とする市場開拓、(4)金融取引の拡充など、さまざまな意図のもとに実施されたものであった。



目次へ  前ページへ  次ページへ