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 第六章 「地方の時代」の諸問題
  第一節 地域開発施策の展開
    三 原子力発電所の新増設と地域振興
      安全性問題の噴出
 一九七〇年(昭和四五)三月に日本原電敦賀一号が、一一月に関電美浜一号が営業運転を開始したが、その直後から事故や故障があいつぎ、原電の安全性問題が衆目にさらされることとなった。七〇年一一月には敦賀一号の第一回定期点検で核燃料棒が破損し一次冷却水に放射能漏れが生じていることが発覚、翌七一年一月には排水口近くのムラサキイガイ、ホンダワラや底土から微量のコバルト60が検出された。また五月にはアメリカ原子力委員会(AEC)より軽水型原子炉の緊急炉心冷却装置の作動に問題があるとの発表があり、敦賀一号では再度放射能漏れが発生した。とくに異常発生後、県への報告がいずれも一か月近く遅れたという事実は、県・立地市町にとって安全管理上ゆゆしき問題であった。このため、八月に県および立地市町(敦賀市・美浜町・高浜町)と施設設置者との間で「原子力発電所周辺環境の安全確保等に関する覚書」が締結され、発電所の建設計画に関して地元の事前了解をとること、自治体に立ち入り調査権を認めることなどが盛り込まれた。しかし、異常があればただちに報告をうけることを期待する県・立地市町側と、所内の技術上の事象として処理しようと考える設置者の間には、「報告」の理解にもくい違いがあり、当初からこの覚書はあくまでも紳士協定にすぎないとの指摘がなされていた。実際、その後も県、立地市町への異常通報の遅れがしばしば問題となった。
 一方、原電の新増設に対する住民の反対運動も活発となった。立地を決定していた大飯町では、七一年六月に「大飯町住みよい町造りの会」が結成され町長へ建設中止の要望書を提出、大飯町勤労者協議会も原電誘致反対を表明した。ここにおよんでさきの「仮協定書」の存在が問題になり、町長はその破棄を表明したが、「町造りの会」は町長リコール運動を開始した。さらに区長役員会が町長退陣要求を決定するにおよんで町長は辞職した。八月の町長選では原電反対派と目されていた永谷良夫が無投票当選し、一〇月の町政懇談会の席上新町長は、とりあえず進行中の原電工事を一時中止させる意向を表明した。これに対して町議会の大勢は原電推進の立場を維持し、一一月に議員提案の工事一時中止決議を否決し、また大島地区に「大島を守る会」が結成され原発推進請願署名運動を開始した。手詰り状態となったこの大飯原電建設問題は、翌七二年に入り知事があっせんに乗りだし、町長の主張する建設一時中止を認めることにより、結果的に建設を進めるという方向で収拾がはかられた。四月に、県・町・関電の三者による「平穏な建設を前提に」工事を一時中止する旨の基本協定が締結された後、七月に安全協定および地域振興協定が締結され、建設工事は再開となった。
 美浜町では、七〇年八月、一・二号の建設にともなう財政メリットが予想外に低かったこともあり、関電に対して三号機の増設を要請し、関電もこれを了承、七一年六月には電源開発調整審議会で美浜三号の建設が承認された。九月に関電が地元の丹生漁協に対して漁業補償および建設協力費を支払うことが明るみに出ると、県汚水公害対策漁業者協議会と菅浜・日向・美浜の三漁協が、温排水による影響を懸念して反対運動を展開、美浜町議会も安全性の確立まで増設を中止する方向で動きはじめた。しかし、原田平吉町長が工事の一時中止を関電から取りつけ、関電による放射能測定体制の強化および美浜町振興計画への五億円の協力金拠出の約束を得ると、議会および漁業者は態度を軟化し、増設了承の方向に転じた。なおこれに関連して七二年一月、美浜町の申出によりさきに県・立地市町・設置者の三者で締結された「覚書」は「協定書」とされ、敦賀市もこれにならった(大飯町は右にみたように七二年七月、高浜町は七四年一月「協定書」締結)。

表152 蒸気発生器細管施栓状況(1993年3月)

表152 蒸気発生器細管施栓状況(1993年3月)
 このように、原発の安全性をめぐって高まりをみせた設置反対の動きに対して、設置者が安全性と地域振興への協力を約束することで新増設が地元で認められていくことになった。しかし、その後も事故や異常発生はくり返された。とくに、七二年六月、美浜一号で蒸気発生器の細管損傷により一次冷却水に含まれる放射能が二次系に漏えいして気体放射能が環境中に放出される事故が発生し、細管損傷問題が加圧水型原子炉の宿命的な問題点であることが判明した。この加圧水型原子炉の細管損傷による放射能漏えい事故は、九三年七月の美浜一号までに県内で一四件発生し、また定期点検のたびにさまざまな原因による細管損傷が多数発見された。これらの細管については施栓またはスリーブ補修がなされたが、施栓本数の増加とともに原子力安全委員会が安全上問題ないとする施栓率である安全解析施栓率も引き上げられるという奇妙な推移を経て、表152にみられるような施栓状況となった。しかし、九一年二月には美浜二号で細管破断事故が発生、わが国ではじめて緊急炉心冷却装置が作動した。施栓率上昇にともなう安全性への疑問が高まり県からも抜本的な対策を関電に要請していたなかで発生したこの事故により、関電は、この七〇年代初頭に運転開始または着工した美浜一・二・三号、高浜一・二号、大飯一・二号の蒸気発生器交換・改修の実施を決定した(『福井県の原子力』、『日本経済新聞』71・8・4、『朝日新聞』71・6・5、10・2、6、72・1・22、『毎日新聞』71・7・2、『読売新聞』71・10・27、72・3・10、5・13、『中日新聞』71・6・9、11・29、『福井新聞』71・9・23、72・4・5)。



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