目次へ  前ページへ  次ページへ


 第五章 転換期の福井県
   第三節 変貌する諸産業
    三 漁業・漁村の新しい動き
      民宿の経営
 一九六〇年(昭和三五)前後から漁村に新しい動きがおこった。沿岸漁業の不振からの脱却策として、夏季に海水浴客相手に民宿を経営する漁家が現われ、またたくまに集落全体が民宿化する漁村も出てきた。沿岸部において農漁業を営むかたわら、旅行者・釣り客に安く宿泊やサービスを提供することは戦前から行われてきた。戦前の民宿(季節旅館とよばれていた)は、漁業のかたわら細々と営まれたのに対し、戦後の漁家経営民宿の特色は、夏季シーズンには民宿の仕事が主であり、民宿の経営は家族全員を動員して営まれ、漁業は民宿の食卓に新鮮な魚介類を提供する副次的な仕事となったことである。高度経済成長期に観光レジャーブームの到来と道路の整備があいまって、京阪神・中京方面から若狭湾沿岸・越前海岸に観光客が押し寄せるようになり、民宿兼業の漁家は著しく増加していった。民宿を営む漁家が、定置網・一本釣・延縄等で漁獲した活魚を漁協・企業が経営する生簀で活かし、その魚を観光客に提供するかたちをとっているので、民宿は比較的低料金で新鮮な魚を味わうことができるシステムになっている。なお八一年現在、福井県には一五一四軒の民宿があり、その収容人員は五万八五〇〇人あまりである。民宿の大半は若狭湾沿岸(一一九八軒)・越前海岸(二三三軒)に集中している(福井県経済調査協会「民宿に関する調査報告書」)。



目次へ  前ページへ  次ページへ