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 第一章 昭和恐慌から準戦時体制へ
   第三節 教育の再編と民衆娯楽
    三 民衆娯楽の普及
      映画と民衆娯楽
 一九三〇年(昭和五)に農村の民衆娯楽について文部省社会教育局が行った調査では、県内の農村部でも囲碁・将棋、田植踊りや青年芝居、盆踊りなどの伝統的な娯楽に加えて、「都市近郊には麻雀、観劇、映画観賞等の娯楽があり」「近来スキー場の開発と共に、スキーはウインタースポーツとして、且つ娯楽の意味を含み漸次発展しつゝあり」と報告されていた(文部省『民衆娯楽調査資料』1)。この調査時の県下の娯楽施設は、表18のように常設映画館七館、運動競技場、野球や庭球などの球技が可能な施設がおかれていた。

表18 県下の民衆娯楽施設(1930年)

表18 県下の民衆娯楽施設(1930年)
 県内の映画館については、三〇年四月のキネマ旬報社による調査では、福井市に福井劇場・松竹館・中央館、芦原温泉に福原劇場、武生町に大勝座、敦賀町に都座・敦賀キネマ、小浜町に旭館が報告されていた(『全国映画館録』)。大正期に無声映画が普及し、この後五年間ほどでトーキーに転換していくことになる映画は、農村部へも急速に普及し、三二年の調査では全国的にも都市近郊農村の娯楽の首位は、圧倒的に映画であった。福井県でも近郊農村の娯楽は映画、スポーツ、囲碁・将棋、神仏詣の順で、農村部でも盆踊り、映画、囲碁・将棋、神仏詣の順であり、映画やスポーツなどの都市的な娯楽がしだいに農村部に広がりつつあったことがわかる(文部省『民衆娯楽調査資料』6)。
 こうした映画への関心を利用して、県衛生課が一八年(大正七)から啓蒙活動に映画を導入したのをはじめとして、社会課、工場課、保安課、健康保険課が映写機を所有し、三二年度には六台の映写機でのべ二三二回の県主催の映写会が開かれていた(文部省『教育映画研究資料』10)。



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