ふるさと文学館秋季企画展 石川九楊の世界 書という文学への旅




 石川九楊は1945年、福井県今立郡粟田部町(現越前市)に生まれ、武生で育ちました。5歳のときに書道塾に通いはじめ、中学校で書の芸術性に開眼して以来、自身の書表現を追究し続けています。一方で、書史・漢字史の研究を起点にして日本語や東アジア全体の文化を考察する評論を多数発表しています。そして、筆記具で文字を書く行為の分析を通して、手で書くことと言葉での表現の重要な関わりを提示してきました。
 現在までに書作品千点、著書百点以上を世に送り出し、いずれの分野でも最前線の表現と論考を続けています。



ふるさと・武生から書と評論の道へ


 石川九楊は武生の中学校で生涯の師となる垣内楊石に出会い、書の芸術性に目覚めました。京都大学へ進学する際、師から「離れても故郷のことは忘れるなよ」との思いを込め、九頭竜川の「九」と楊石の「楊」の字をとり「九楊」の名前をもらいました。記録的な豪雪となった1963年、ふるさと武生を離れ京都へ移りました。
 進学後も書にのめり込み「書とは何か」、「何をどう書くか」の問いに向き合っていた九楊は、友人たちと書の研究会「由蘖会」を結成。展覧会や議論を重ねていきました。その頃に田村隆一や谷川雁など詩人たちの言葉に出会い感銘を受けます。これらの言葉にふさわしい書の表現を求めて試行錯誤を繰り返し、本格的に書と評論の道を歩み始めました。






プロローグのコーナーでは、代表作や評論読解のためのキーワードとともに、100冊を越える評論全著作を展示。


灰色の時代から古典作品、時代の言葉へ


 大学を卒業して化学会社に就職した石川九楊は、自作の言葉を題材にして独自の書法を試していきました。そして白い紙と黒い墨のコントラストにカスレやニジミがある、そんな決まりきった表現を超えるため、薄くグレーに染めた紙とそれほど黒くない墨を使い、灰色の濃淡のある新しい独自の書表現を確立しました。
 この新しい表現に手ごたえを感じていましたが、次第に定型化し、新たな書が生まれない停滞した状態になってしまったと気づきます。そこから抜け出すため、目隠しをする、左手で書く、手に包帯を巻きつけるなど、今ある表現を打ち壊すための試行錯誤を繰り返し、もう一度白い紙と黒い墨を使った書に立ち戻りました。
 その後、「歎異抄」「源氏物語」など古典作品を題材にして、その作品に込められた思想や言葉の意味を丁寧に解釈することで、多彩な書きぶりと技法を生み出しました。それらを集積し、再び戦後詩人たちの言葉を書にしていきました。
 2001年に起きたニューヨーク貿易センタービルのテロ事件をきっかけに自作詩を作り始めた九楊は、それを書作品へと昇華させていきました。そして現代の姿と言葉にふさわしい書表現を追究し続けています。






半紙大の紙に書かれた「はぐれ鳥とべ」のための習作群(初公開)には、灰色の作風から脱却しようとする石川九楊の苦心がうかがえる。




「まさか書がこのような姿にまで至ろうとは想像すらしていなかった」と語る通り、一つの表現にとどまらず今も新たな書の書きぶりを模索し続けている。






「筆蝕」の発見


 石川九楊は作家や知識人たちの書を読解していく中で、文字が書かれているのではなく、言葉が書かれているのだと気づきました。そしてその言葉は「書く」という行為によって生まれているという考えに至ります。「話す」こととの比較や、書字の歴史を研究することで書く行為を細かく分析し、「書くとは何か」という疑問に迫りました。そして、手に持った筆記具が紙に触れ、痕跡を残して離れるまでに起こる様々な出来事を「筆蝕」(ひっしょく)と名付け、書く行為の本質は筆蝕にあり、筆蝕によって言葉が生み出されるという原理を発見しました。この筆蝕論を土台として、文字論、言語論、表現論など幅広い評論を展開しました。
 また、インターネットやデジタル機器の氾濫による書く機会の減少が日本語の表現を狭めていると指摘し、肉筆の重要性を説いています。




10月24日の講演会にて、筆蝕の仕組みを解説する石川九楊。



河東碧梧桐-評論から評伝へ


 石川九楊氏は大学時代、書のグラフ誌『墨美』に掲載されていた俳人・河東碧梧桐の書に出会い、その自由で多様な書表現に大きな衝撃を受けます。それ以来、碧梧桐の表現について調べ資料を集めていました。そして2018年6月から1年をかけて『文學界』に碧梧桐の評伝を発表。書団体「龍眠会」を設立して取り組んだ書の改革運動に始まり、新傾向俳句の分析と明治・大正の俳壇について、新しい表現模索のための全国行脚と登山に至るまで、膨大な作品と資料を集めて碧梧桐の実像に迫りました。
 「私が人物に興味を抱くのは、まず書に魅かれるところから」と語る九楊は、書と俳句において革新を続け大きな業績を残しながら、俳句史から抹消された碧梧桐への共感と敬愛を込め、その生涯を描き切っています。




『河東碧梧桐』執筆のために収集した資料群。国会図書館にもない貴重な書籍も多数ある。

開催概要
開催期間2020年10月23日(金)~2021年1月24日(日)
会場福井県ふるさと文学館 
内容
◆著作コーナー
古代中国から現代日本までの書の歴史をまとめあげた「書史三部作」(『中國書史』『日本書史』『近代書史』)をはじめ、100以上にわたる著書をご覧いただきました。
◆作品コーナー
石川氏が「時代と釣りあう書」をテーマに、半世紀以上にわたって制作を続けた書作品の数々を紹介しました。
◆九楊を知る
執筆のための資料、愛用の毛筆や墨、自作原稿用紙など、石川氏の創作に欠かせない資料を展示しました。
リーフレット・展示資料一覧「石川九楊の世界」チラシ(pdf 2,229kb)
展示資料一覧前期(pdf 317kb) 展示資料一覧後期 (pdf 377kb)
































Adobe Readerのダウンロード PDFファイルの閲覧には、最新の Adobe Reader が必要です。

 

会場位置MAP

会場_展示室