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 第六章 「地方の時代」の諸問題
  第二節 諸産業の展開
    二 総合農政下の農業
      農家生活の現在
 以上のような農業生産の変容や兼業の深化とともに、福井県の農家生活もいっそうの変化をとげて今日にいたっている。これを農家経済の動向からみておこう。農家総所得は、福井県の場合、六〇年代からすでに勤労者世帯を上回り増大していたが、七〇年代から八〇年代にかけていっそう大きな伸びを示し、一九九〇年(平成二)には、勤労者世帯(福井市)の六一八万円(実収入)を大きく引き離して一〇五五万円に達した。これは、同年の全国農家平均の八四〇万円を二〇〇万円以上上回り、全国最高水準の所得でもある。この高所得をもたらしているのは、いうまでもなく農外収入の増大で、九〇年には総所得の九三%を占めるにいたっている。しかも、前述のように、この間福井県の兼業形態は恒常的勤務が大半を占めるようになったことから、八〇年代なかば以降には、就業者一人あたりの収入でも、勤労者世帯を上回るにいたった。こうした所得の伸びとともに、家計費も総額・一人あたり額ともに増大し、九〇年には、家計費総額は六四一万円(一人あたり一二八万円)に達した。
 このように、福井県農家は所得や消費水準において都市勤労者世帯をしのぐ「豊かさ」を獲得しているが、他方、それは六〇年代以来の農家の多就労状態をいっそう強めることによってはじめてもたらされたものであり、決して本県農業の順調な発展によるものではないことは銘記すべきであろう。



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