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 第六章 「地方の時代」の諸問題
  第二節 諸産業の展開
    一 「地方の時代」の福井県経済
      第二次産業の推移
 そこで、まず東北六県と福井県の製造業の推移の違いが注目されよう。図69は製造業従業者一人あたりの付加価値額を全国平均水準と比較したものであり、製造業部門の生産性格差を示すものである。また図70は製造業常用労働者の平均現金給与格差を示したものである。これらによれば、東北六県の場合、一九六〇年代後半から生産性格差の拡大と賃金格差の拡大が生じていることがわかる。すなわち、右にみた東北における製造業の比重の傾向的上昇は、低賃金を利用した労働集約的な産業部門、すなわち電気機械工業などの部品加工・組立に代表される部門のこの地域への大量の進出によるものであることが推測される。
図69 1人あたり工業生産付加価値額の対全国比(1965〜83年)

図69 1人あたり工業生産付加価値額の対全国比(1965〜83年)



図70 製造業常用労働者1か月あたり平均現金給与(1965〜85年)

図70 製造業常用労働者1か月あたり平均現金給与(1965〜85年)
 一方、福井県では、六〇年代なかばの生産性は全国平均の六〇%以下とかなり低い水準であったが、六〇年代後半から格差の縮小へむかう。賃金格差についても、六〇年代後半には一時的に東北と同様に格差の拡大が生じるが、生産性の上昇を追って賃金格差も縮小の方向へむかった。その後、七〇年代後半には生産性格差の拡大が生じて東北に接近するが、八〇年代に入るとふたたび格差の縮小がみられる。これは織物部門において、六〇年代末にはじまった生産性の高いウォータージェットルームの導入が、七〇年代末から八〇年代はじめにかけて、急速に進んだことによると考えられる。
 このように、福井県は、相対的に賃金の低い地域であり労働集約的な織物に依存した工業発展が進行していたが、この時期に全国各地に機械下請部門を中心とした労働集約的な工場生産が展開するなかで、織物部門での資本集約化による生産性格差の縮小がある程度進み、さらに労働者への所得分配も一定の改善をみたのである。
 この時期の地方の経済を特徴づける産業に建設業がある。さきにみたように福井県においても東北六県においても県内総生産に占める比重は全国的にみて高いが、一九七〇年代にはそのポイントを上げていることがわかる。この背景には、七〇年代に「地方の時代」のキャッチフレーズのもとで、地方における公共事業の重点化がはかられ、いわば財政を通じた所得の再分配が進められたことが大きい。
 図71は公共工事着工額の対全国比であるが、七〇年代における大都市圏の比重の低下と東北の比重の上昇が明確に表われている。北陸三県については若干ポイントを上げた程度で顕著な変化はみられないものの、公共事業への支出水準が七〇年代に飛躍的に伸びたことを考え合わせると、地方の経済にとって重要な意味をもったといえよう。
図71 公共工事着工額の地域別構成比(1965〜84年度)

図71 公共工事着工額の地域別構成比(1965〜84年度)

 福井県の公共工事着工状況についてみてみよう(図72)。七〇年代前半に大きな比重を占めるのは道路であり、公共工事着工全体の三割以上を占めている。また道路以外の産業関連公共事業もふえている。これに対して七〇年代後半以降は、地方定住推進のための基盤整備をうたった「第三次全国総合開発計画」が策定(七七年一一月閣議決定)されたこともあり、社会厚生関連の工事が三割以上を占めるとともに、農林水産、治山治水といった工事事業がふたたび比重を高めている。このように福井県の公共工事は、道路、産業基盤整備事業が先行して進み、その後、農山村を中心としたさまざまな建設土木事業と福祉・民生関連の諸施設建設事業に重点を移していったことがわかる。
図72 福井県の公共工事着工状況(1965〜84年度)

図72 福井県の公共工事着工状況(1965〜84年度)



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