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 第三章 占領と戦後改革
   第四節 戦後教育改革
    一 六・三・三・四制教育の実施
      六・三制の開始
 一九四六年(昭和二一)三月に来日した第一次アメリカ教育使節団は、各地での視察にもとづき報告書を総司令部に提出した(『北陸学園百年史』、『福井市豊小学校百年史』)。四月、総司令部は同報告書を発表したが、そのなかには四大教育指令のうえにたち、日本の戦後教育のゆくえを左右する重要な勧告が含まれていた。すなわち、新しい学校制度としての六・三・三制、とくに六・三制の義務制、無月謝、男女共学などの内容であった。これらの提案は日本教育改革の実施計画に大きな力をあたえ、民間情報教育局の指示のもとにその多くが実行に移されていく。これに先立ち「米国使節団に協力すべき日本側教育家委員会」が発足し、使節団と協力しつつ独自の改革案を文部大臣に提出したが、政府側の対応は遅れ、同年八月にようやく総理大臣の諮問機関「教育刷新委員会」が発足した。委員会は一〇月に六・三義務制の原案を決定、翌月に教育基本法の要綱を決定、一二月に(1)教育基本法に関すること、(2)六・三・三・四制に関すること、とくに中学校(仮称)は三年、義務制、全日制、男女共学、独立校舎、単線型とし四七年四月からの実施を骨子とする建議を行った。一方、民間情報教育局も六・三制の早期実施を政府に働きかけ、四七年二月、文部省は小・中学校を本年度から、高校を四八年度、大学を四九年度からとする新学制実施方針を発表し、閣議もこれを決定した(『戦後自治史』5)。
 しかし、新制中学校発足の予算措置は、四七年度の新制中学校が一年生のみで、教室は現存の施設の転用で対処しうるとの考えにたって大幅削減され、戦災による被害や地域の実状を完全に無視したものであった(表90)。この間、福井県では中央での動きをうけて、関係機関への準備調査や新制度に対する県の方針を通達していた。しかし、新制の小学校に比較的円滑に移行できる国民学校の初等科・高等科を通じての完全な男女共学さえ、四六年一〇月の通達ではその実施を明確にできず、新制中学校についても「一市町村に一校設立を原則」としながら「設立すること困難なる場合等には他の市町村に委託することができる」とし、「なるべく男女共学とする」などいまだ明確な構想をたてられない状況であった(資12下 一一五、一一七)。

表90 空襲による学校の被害(1945年7月)

表90 空襲による学校の被害(1945年7月)
 四七年三月、文部省は「新学制実施準備の案内」を作成、全国の関係機関へ配布し、同月「教育基本法」が公布された。こうして四月から六・三義務制が開始され、福井県でも二五の小学校が誕生した。しかし、新制中学校については教員数・配置の問題もあり発足は五月となった。市町村立中学校一七九、このほかに旧制中等学校の在校生をそのまま新制度に切り替えたため、県立中等学校二二、市立・町村立中等学校五、私立中等学校三に併設中学校が設置され、福井師範学校も鯖江に神明中学校併設の付属中学校を開校した。こうした公立の併設中学校は当該生徒の卒業とともに四九年三月かぎりで廃止され、私立の併設中学校も併設勝山精華中学校は五〇年、併設北陸中学校は五五年、仁愛学園併設女子中学校は五六年に廃校した。
 中学校発足にあたり懸念された点の一つに男女共学があった。しかし、設置そのものに問題が集中し、共学にあたり危惧された点も結果として杞憂に終わった(『福井新聞』48・1・28)。一方、設置に関しては十分な予算措置もないまま発足に踏み切ったため、市町村立一七九校のうち校長専任の独立中学校は六校で、他は小学校長が中学校長を兼任し、多くは小学校の教室を借用して授業を始めた「居候中学校」と呼ばれるものであった。全国的なこうした実状に対し、さきの教育刷新委員会は義務教育にともなう緊急措置を建議し、政府も四七年度補正予算を計上、地方宝くじ発行による収益金と地方債を承認した。福井県も国庫補助と起債承認の内示をうけ二部授業の解消・仮校舎建築の動きを開始した。
 しかし、四七年秋のキャスリーン台風の被害対策のため、突如六・三制予算の半減が決定された。このため、すでに内示をうけ校舎の建築に着手していた地方公共団体に動揺をきたし、福井県でも多数の学校の建設問題が宙に浮いた状態となった(『福井新聞』47・11・14)。当時、建設費においては国庫補助・起債のほかに住民からの寄付も大きな割合を占めていた(資12下 一二〇)。とりわけ財政規模の小さな町村においてこのことは顕著であり、起債が予定額に達しないときには住民への賦課も辞さない決意で臨んでいたのが実状であった(旧口名田村役場文書)。県は四七年一〇月に県新学制実施協議会を設立していたが、過重な負担を強いる新制中学問題に鑑み、四八年三月、協議会による「新制中学校設置基準」を各市町村あて通知した。これによれば学校規模は九から一八学級が理想とされ、組合立中学校の場合その範囲を片道六キロメートル(一時間半程度)としている(資12下 一二一)。また、町村組合立中学を推進するため補助金受付・助成金支給順位を定めるとともに、推進機関として各地方事務所ごとに新学制実施運営協議会の設置を促した(旧口名田村役場文書)。



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