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 第一章 昭和恐慌から準戦時体制へ
   第二節 農業恐慌と農村社会
    四 恐慌下の水産業
      漁業組合の改組と戦時統制
 昭和恐慌下の一九三三年(昭和八)三月、「漁業法」の改正が行われた。この漁業法の改正の特色は、出資制度(無限・保証・有限責任)を取り入れ、漁業協同組合に組織変更した漁業組合に漁業自営を認めたほか、事業活動の自由を大幅に認めたところにある。漁業組合の協同組合化の推進には、弱小漁業組合を統合し漁業組合の組織基盤を強化し、漁村の経済的安定をはかる狙いが込められていた。三八年の漁業法改正では、漁業協同組合に信用事業(貯金および資金貸付業務)が認められるようになり、漁業協同組合は漁村を支える中核団体の役目を担うことになった。
 福井県で協同組合への改組が最初に行われたのは三方郡山東村で、三五年四月に丹生・竹波・菅浜・坂尻の各漁業組合が合併して山東村漁業協同組合が発足した(『大阪朝日新聞』35・4・14)。これを皮切りに県下の比較的規模の大きな漁業組合は次々に協同組合化を果たし、合併して協同組合となる漁業組合も数多く出た。そして、三七年一月には各漁業協同組合を束ねる全県的組織として、保証責任福井県漁業組合連合会(県漁連)が組織された。三六年末段階で、九七の漁業組合中三四組合が協同組合への改組を終えている(資12上 一八〇)。県漁連は成立後まもなく、福井県水産会の経営する三国・小浜共同販売所の経営を引き継ぎ、四〇年七月には、敦賀漁業株式会社より敦賀市大金の魚市場を買収し、県漁連敦賀共同販売所を開設した。四一年六月には、早瀬水産株式会社より魚市場および鮮魚運搬船を買収し、県漁連早瀬出張所を開設するなど、魚商に握られてきた魚介類の販売権を漁民の側に取り戻す努力を一貫して行っていった(『福井県水産界史』)。
 日中戦争のはじまりとともに戦時経済統制が実施されるようになり、漁民たちはしだいに漁業用資材の供給不足に悩まされるようになった。なかでも石油・誘魚用カーバイト不足が深刻になり、「魚群を眺めて船も出ず」(『福井新聞』40・5・15)という事態も生じるようになった。三九年以降漁業用資材の配給元となったのが県漁連であり、県漁連は漁業用資材の確保と生産増強をはかる効果的配給を実施するための統制機関の役目を担った。
 漁業用資材と労力不足が顕著になる状況のなかで、四一年九月に資材と労力の合理的運用をめざして、県下漁業組合・郡市水産会の幹部と県水産課の合同協議がもたれた。その協議で、(1)地曳網はなるべく漁業組合が自営する、(2)定置漁業の整理合同をはかる、(3)機船底曳網漁業・サバ流網漁業・巾着網漁業は地域的統合をはかる。すなわち、機船底曳網漁業については、当業者を統合して三国町・四ケ浦村・城崎村・小浜町など県下に一〇ある発動機船組合を実行組合として共同経営を行う。サバ流網漁業については、雄島村・小浜町・四ケ浦村の三地域に、巾着網漁業については、嶺南地方の六地域に統合してそれぞれ実行組合を組織し共同経営を行う、(4)延縄・一本釣漁業は、共同曳船あるいは二艘一組のかたちで行う、などの対策が講じられることになった(『福井新聞』41・9・27)。
 戦時体制が深まるにつれて、軍需用食糧・国民の食糧としての水産物の安定供給がいっそう重要な課題となっていった。四一年四月に水産物の出荷に統制を加え配給ルートを整備する目的で、「鮮魚介配給統制規則」が公布された。この規則にもとづき、農林大臣指定陸揚地として敦賀市・三国町および雄島村・小浜町、集荷場として敦賀・三国・小浜の各共同販売所が選ばれた。水産物は、知事指定の陸揚地・集荷場一七か所とあわせて二一か所に陸揚げ・集荷のうえ、県内外の指定消費地の市場に送られるようになった。
 四三年三月、「水産業団体法」が公布された。この法のねらいは漁業組合・漁業協同組合・水産会などを統合して、漁業用資材および水産物の配給統制を系統機関に一本化することにあった。その結果、全国には中央水産業会、県段階には道府県水産業会、漁村には漁業会がおかれることになった。九月の同法の施行により、翌年三月末までに県内の漁業組合・漁業協同組合は、次々に漁業会に強制的に改組されていった。そして四三年一一月には、県漁連・県水産会・郡市水産会を統合して福井県水産業会が設立された。
 日中戦争がはじまってから四三年まで、四〇、四一年をのぞいて、福井県の沿岸漁業は年間六〇〇万貫をこえる漁獲高を保った(図18)。それは、定置網が好調でブリ等の漁獲高が多かったこと、巾着網・延縄によるサバ・イワシの豊漁に支えられたものであった。しかし、四四、四五年には極端に漁獲高は減少した。漁業用資材の窮乏化と働き手を戦争に駆り出されて深刻な労力不足に陥ったことが原因である(表17)。

表17 小浜町西津の漁業種類別労力構成(1944年)

表17 小浜町西津の漁業種類別労力構成(1944年)



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