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 第一章 原始時代の社会と文化
   第一節 ふるさとのあけぼの
    四 古福井人の生活
      木の文化
 縄文時代は、世界史のなかでみれば新石器時代であるので、石器時代といわれたこともあったが、鳥浜貝塚からみた縄文時代はむしろ「木器時代」とよぶ方が適当であると思われる。わが国の縄文文化は木との深いかかわりあいのなかで成立したと考えられる。
 鳥浜貝塚からは、最大の木製品である丸木舟のほか、櫂・石斧柄・丸木弓・尖り棒・小型弓・容器類・杭・棒をはじめ各種板類と用途や名称不明の木製品などが出土している。これらの木製品の樹種についての調査では、大変に興味深い結果が出されている。丸木舟は水に強く加工しやすいスギ、櫂は弾力性に富みやはり水に強いケヤキやヤマグワ製である。丸木弓は堅いカシ、小型弓は弾力性に富むカヤ、板は素直で加工が容易なスギ、盆や鉢などの容器類は緻密なトチといったように明らかに樹種の選択がされている(嶋倉巳三郎の鑑定による)。
 木の加工技術の面から出土した木製品を観察すると、鳥浜貝塚人らは木の柾目・板目の使い分けをはじめ木の特性を熟知していたことがわかるのである。加工する石器は通常の縄文遺跡と変わることはなく、磨製石斧・石匙・石錐などである。木の加工方法については、基本的な十段階の工程が考えられる。木を石斧で削る、切断する、打ち割る、剥ぎ削る、溝を掻く、磨く、すりへらす、折り割る、穿孔する、焦がすなどと多彩である。実際の資料でこれらの木加工の工程が判明した意義は大きい。木製品の仕上げは、骨角器のそれと同様に磨くということが一般的になされている。このことから、完成品・未完成品の区別は容易に判明する。たとえば、一九〇点近く出土した石斧柄のうち、九五パーセントが未完成品である。櫂などにも多くの未完成品があるので、このことはそんなに珍しいことではないと思われる。
 石斧柄の製作工程は、基本的に四段階であるが(図3)、とくに注目されるのは生木から一気に石斧柄を製作するのではなく、ある段階で貯木したものを使用していることである。それも水中に漬けて保存しておく工程があったようである。また、木製品製作用の木伐採時期は、おそらく冬から春に限られ、いわゆる「冬材」が用材として貯木されたのであろう。
図3 石斧柄の製作工程

図3 石斧柄の製作工程




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