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 第一章 原始時代の社会と文化
   第一節 ふるさとのあけぼの
    四 古福井人の生活
      サルノコシカケ
 鳥浜貝塚の五五〇〇年前の層から、一〇点余りの大型の茸類が木製品などとともに出土した。素人目にもサルノコシカケらしいことが理解できるのである。この茸類には、いくつかは焦がした痕跡が認められたことから、偶然ではなく明らかに意図的に鳥浜貝塚人が採集したものであることがわかる。サルノコシカケは薬として珍重されていることもあり、鳥浜貝塚人と薬との関係が追求できる可能性も想像をたくましくした。これまでこの種の茸類以外に、鳥浜貝塚では茸らしきものは出土していない。
 この茸は正確には、コフキサルノコシカケであるという。それでは、鳥浜貝塚人は、この茸をどのように活用していたのかというと、コフキサルノコシカケの薬としての効用は疑問視されており、それよりも焦げ跡のある部分が注目され、可能性として彼らの生活のなかで、民俗例から推して大変ユニークな利用法が示唆された。それはこの茸をよく乾燥させ、火をつけて竪穴式住居のなかでくゆらせて、蚊取線香のように使用するという考え方である。当時も蚊はいたに違いなく、これは実際効用があるということであった。あるいは、火種の保存としての活用の可能性もあるともいう(青島清雄の教示による)。茸活用については、意外と生活臭のこもった考え方が出されたわけで、安易に漢方薬と結びつけられないことが判明した。それらとともに今日、健康食品としても注目されている茸は、現代の私たちの一週間の献立をみても食卓にのぼらないことがないことを考えれば、鳥浜貝塚人も茸を食していたことは十分に想像されるところでもある。



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