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 第一章 原始時代の社会と文化
   第一節 ふるさとのあけぼの
     三 ふるさとの遺跡をめぐって
      低湿地遺跡の博物館
 三方町のほぼ南北を流れる 川流域には沖積低地が広がり、東方に三方断層とよばれる活断層があり、地形的にもきわめて興味深いといわれている(岡田篤正「三方五湖低地の形成過程と地殻運動」『鳥浜貝塚』四)。これらの地域周辺から、一〇か所にのぼる縄文遺跡の分布が判明している(図2)。それもほとんどが、低湿地遺跡の様相を呈する全国的にもまれな遺跡群であることが明らかにされた(『鳥浜貝塚』一〜六、三方町郷土資料館『古三方湖周辺の縄文遺跡展』)。
図2 はす川流域の縄文遺跡

図2 川流域の縄文遺跡

 縄文人のタイムカプセルとよばれる鳥浜貝塚は、なかでも代表的な遺跡であり、縄文時代草創期から早期、そして中心は前期の遺跡で、前期の竪穴式住居跡も明らかにされ、遺物は有機質のものを中心に膨大な量にのぼる。 川と高瀬川の合流点一帯の海抜〇メートルからマイナス四メートルに遺物が包含されている。この鳥浜貝塚の西約五〇〇メートルにユリ遺跡があり、これも低湿地遺跡である。平成二〜三年に、圃場整備事業にともなう発掘が実施された。その結果、縄文時代中・後期に属する丸木舟三隻、晩期に属する丸木舟一隻の出土があった。まさしく湖の舟つき場にあたる岸辺を調査したといえる。
 高瀬川の左岸の山裾には牛屋遺跡と北寺遺跡がある。とりわけ北寺遺跡は、平成二年に調査された保存状態の良好な低湿地遺跡で、相当な量の木製品(写真21)・編物・種子類などが出土した。時期的には、縄文時代中・後期に属する。薄い貝層がブロック状に検出されており、動物骨も出土している。とくに木製品は、櫂・丸木弓・小型弓・容器類など豊富な内容を有する。
 そのほかに、昭和四十四年に銅鐸(向笠鐸)が出土した地点の水田のなかに仏浦遺跡があり、低湿地の様相を呈し、縄文時代中・後期の土器が検出されている。この遺跡より山を越えた側の南東には田名遺跡があり、ここからも縄文時代中・後期の土器が出土し、低湿地の様相を呈していた。また川右岸の北前川区の江跨遺跡も縄文時代中期の土器が出土し、低湿地遺跡である。三方区の市港遺跡は、これまでに紹介した遺跡とやや異なった縄文時代早期の時期の低湿地遺跡である。現在の三方湖に面する唯一の遺跡として著名な田井野貝塚は、鳥浜貝塚以後の縄文人の足跡を追えるような時期の遺跡といわれ、縄文時代の前期を中心とする時期でもやや終わりの時期の遺跡である。土器・石器のほか、骨角器、イノシシやシカなどの動物骨、クルミ・トチなどの種子類、糞石など豊富な遺物が得られた。低湿地遺跡ではないが藤井遺跡はこれらの遺跡群のなかでも比較的高い地点に立地している。それは、川右岸の海抜一五メートルの水田のなかで炉跡二基などが発見され、縄文時代中・後期の集落跡の遺跡である。
把手付柄杓形木製容器

把手付柄杓形木製容器

注口付浅鉢形木製容器

注口付浅鉢形木製容器
写真21 北寺遺跡出土の木製品

 さて、これらの三方町内の低湿地遺跡は、わが国の縄文時代の草創期から晩期にいたる各時期の古環境や古地形の復原にきわめて有力な情報を提供し、あわせて縄文人の生業の復原など生々しい資料をきわめて身近な存在として示してくれる。いわば低湿地遺跡の博物館の様相を呈している。三方湖とその南の奥深く湾入した「古三方湖」ともいうべき湖の湖畔に生活した縄文人の生活が明らかになった。なかでも、鳥浜貝塚の二隻、ユリ遺跡の四隻の丸木舟は、わが国の原始時代の舟の歴史の基本的な資料であり、前・中・後・晩期の各時期の丸木舟が出土した地域は皆無であり、まれな存在である。六隻のいずれの丸木舟も内水面を航行した舟であるが、造船技術を知るうえにも貴重な資料である。
 なお、これ以外に現在の三方五湖周辺の遺跡としては、水月湖に面する三方町海山の五十八遺跡がある(三方町教委『田井野貝塚』)。昭和五十三年の農道工事の際、縄文時代中期の土器が地元の人により採集されている。遺跡の立地は、ほぼ水月湖の湖岸の低地にあることが注目される。久々子湖に面する遺跡としては、昭和四十年代三方町苧で土地改良時に、縄文時代後期の土器が地元の人によって採集された苧遺跡がある。
 美浜町内では、久々子湖を望む台地上にある金山の竜沢寺遺跡から、昭和三十年代に縄文時代中期の土器と石器が採集されている。竜沢寺遺跡の東方、久々子の口背湖遺跡付近の台地から、昭和三十年代に両端を打ち欠いた縄文時代の石錘がまとまって地元の人により採集されている。
 若狭地方において、集中的に分布するこれらの三方五湖周辺の縄文遺跡から、湖に依存し、加えて海や山の幸さらには里の幸を得て、丸木舟を駆使して活動していた縄文人の姿が鮮明に浮かんでくるようだ。
  



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