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 第六章 「地方の時代」の諸問題
  第二節 諸産業の展開
    四 石油危機下の工業と減量経営
      コスト・ダウンの進展
 石油危機以降の企業経営の課題は、原材料価格および賃金の上昇と断続的な円高を背景に、いかに労働生産性を引き上げて市場競争力を維持・強化するかということであった。日本企業の主たる対応は、エネルギー消費の節約を目的とする省エネ投資およびFA(ファクトリー・オートメーション)化・OA(オフィス・オートメーション)化に象徴される合理化投資によるコスト・ダウンと高付加価値の追求であった。
 県内企業における省エネ投資や合理化投資については、各社の社史・広報等に枚挙にいとまがないほどに描かれている。省エネ対策としては、さまざまな熱効率の高度化や廃熱回収・再利用などの技術改良、生産方法の改善が各分野で実施された。一例をあげると、染色加工はボイラー燃焼のために大量の重油を使用する代表的な石油多消費産業であり、第一次石油危機以来さまざまな試みがなされていたが、セーレンでは第二次石油危機の到来にさいして一九八〇年(昭和五五)三月、「破天作戦」と銘打った全社的な省エネ運動を実施した。すでに同社の燃料消費は前年一月の加工一メートルあたり二五〇CCから一年後の八〇年一月に二〇〇CCへ二五%の節減が実行されていたが、これを二年後の八二年一月には一〇〇CCに半減するという目標が設定された。これに対して各種の省エネ対策がとられたのに加え、社内で省エネに関する提案を募集し(応募数二三二四件)、優秀提案について表彰、実践した。結局八二年一二月に燃料消費は一四〇CCまで低減し、三〇%の省エネ実績をあげるにいたった(『セーレン百年史』)。
 また合理化投資としては、前項でみた織布部門におけるウォータージェットルームの普及、連続生産設備の導入(たとえば、北陸コンクリート工業におけるコンクリートブロック、フクビ化学工業における梱包ラインの完全自動化など)にみられる省力化の徹底が進んだ(『ホクコン三十年史』、『一歩一歩』)。またME(マイクロ・エレクトロニクス)技術を背景とするFA化も進み、コンピュータ制御によるハード・ソフト両面における新技術が積極的に採用された。
 さらに、こうした省力化の動きは、各種管理・事務部門のシステム化を促進した。たとえば芝浦製作所小浜工場では、七八年に最初のマシニング・センターを導入し、その後も高性能機械の増強が進められた。一九七〇年代末から、こうした最終製品メーカーに部品納入を行う機械工場では、生産管理面でも最終製品メーカーの実施する「ジャストインタイム方式」という高品質とムダのない生産・在庫管理方式が導入されることになり、品質改善とコスト削減が強制されることになったが、小浜工場でも、主要納入先の東芝三重工場の「UFO」と呼ばれる生産方式が導入された(『五〇年のあゆみ』)。また、各社では、納入先の多品種少量発注、納期の短縮化要求などに対応して生産管理、在庫管理、出荷管理のコンピュータ処理による合理化が行われるとともに、人事・給与計算などの事務部門のコンピュータ化も急速に進んだ。



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