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 第六章 「地方の時代」の諸問題
  第二節 諸産業の展開
    二 総合農政下の農業
      園芸・果樹・畜産の産地形成
 米の生産調整政策が継続されるなかで、七〇年代以降、福井県においても園芸、果樹、畜産等の産地形成が取り組まれ一定の進展をみることになった。
 七〇年代から八〇年代をとおして、福井県の農業生産は依然として稲作を基調として推移し、農業総粗生産額に占める米の割合はつねに七割を上回ったが、他方、他の部門では、野菜が生産額を伸ばし、その割合は一九七五年(昭和五〇)の七・二%から九〇年の一三・八%に増加した。これは、この間の需要増に対応して、福井県においてもビニールハウスやガラス室を利用した施設園芸が急速に普及し、施設をもつ農家数および収穫面積がともに急増したことによるところが大きい。野菜の種類別では、トマト、きゅうりなどの収穫面積が大きいが、近年ではピーマン、スイカ、メロンなどもふえてきた(『福井県の農業』)。
 こうした野菜生産は、坂井北部丘陵地・三里浜砂丘地、武生市白山地域、福井市近郊など県内各地に産地をもつが、七〇年代以降とりわけ大きな産地として形成されたのは、坂井北部丘陵地である。坂井北部丘陵地は、国営のパイロット事業として、六九年から八六年にかけて、事業実施地域二六五三ヘクタール、総事業費三一六億円で開発が進められた(北陸農政局坂井北部開拓建設事業所『坂井北部事業誌』)。その結果、八〇年代なかばには、大根、メロン、スイカなど野菜八品目の出荷量は県内シェアの六〇%を占めるなど、県内最大の園芸作物地帯として成長した。
 園芸作物とならんで、この間県内における果樹の生産も拡大した。粗生産額は、全体に占める割合は少ないものの、七五年の四億七八〇〇万円(〇・七%)から九〇年の一三億四〇〇万円(一・七%)へと急成長している。品目では、ナシ、ウメなどを中心に収量・生産額を拡大し、坂井北部丘陵地、三方町などの産地化が進んだ(福井県『農林漁業の動き』)。
写真109 県営嶺南牧場

写真109 県営嶺南牧場

 他方、畜産は表164にみるように、六〇年代以来飼養農家数を減らしながら、一戸あたりの飼養頭羽数をふやして大規模化した農家によって、生産量・生産額を拡大し、七〇年代から八〇年代前半にかけては農業粗生産額の一〇%をこえる水準で推移した。この間県でも、畜産を「選択的拡大」のひとつに位置づけて、県営奥越高原牧場(六八年着工、七一年完成)や県営嶺南牧場(七五年発足)の建設などをはじめとする種々の振興策をとおして、畜産の拡大がめざされた。その結果、高級肉用牛として「若狭牛」の銘柄化・産地化が進むなど一定の成果をみた。しかしながら、八〇年代後半以降の生産量・生産額の減少傾向が示すように、近年の畜産物の輸入自由化などの影響で、福井県の畜産経営も苦境に立たされており、その打開にむけた模索が続けられている。

表164 飼養戸数・飼養頭羽数および畜産総粗製産額

表164 飼養戸数・飼養頭羽数および畜産総粗製産額



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