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 第六章 「地方の時代」の諸問題
  第二節 諸産業の展開
    一 「地方の時代」の福井県経済
      家計の動向
 以上みてきたように、「地方の時代」に実現された「豊かさ」は、福井県の場合、ある程度は製造業における生産性格差の是正によるものの、主たる部分は公共事業を通じた所得の再分配と低賃金部門での就業機会の拡大によってもたらされたものであった。そこで最後に、この時期の家計の動向をみることにより、県民の生活状況を眺めておこう。
 図75は、家計調査による福井市と東京都区部の勤労者世帯の実収入、消費支出、貯蓄の純増について示したものである。まず実収入をみると、福井市の勤労者世帯では一九六〇年代後半から全国平均を上回り、七〇年代末には東京都区部をも上回っている。世帯人員規模の違いと賃金水準の格差を考え合わせると、こうした実収入の多さの背景には家族による多就労状況が存在することは容易に推測できる。他方、消費支出についてみると、東京都区部の水準に対して福井市の勤労者世帯は大きく下回っていることがわかる。このことは、当然貯蓄増の推移にも反映しており、この間、福井市の勤労世帯の貯蓄の純増はつねに全国平均を大きく上回っているのに対して、東京都区部では福井市よりも低い水準で推移している。
図75 福井市と東京都区部の実収入・消費支出・貯蓄純増(1965〜85年)

図75 福井市と東京都区部の実収入・消費支出・貯蓄純増(1965〜85年)

 このように福井市の勤労者世帯の特徴は、家族多就労による収入の確保と貯蓄の積増しによる将来への消費の繰延べが行われている点にあるが、他方では、消費支出の水準がしだいに高まっていることも注目に値する。七〇年代後半にはその水準は全国平均をこえるようになり、いわゆる「都会なみ」の消費生活水準が少なくとも数字の上では実現することになった。そしてこの消費支出水準の上昇は、さきに述べた家族多就労構造をさらに強める方向へ作用していると考えられる。



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