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 第六章 「地方の時代」の諸問題
  第一節 地域開発施策の展開
    三 原子力発電所の新増設と地域振興
      原電立地と地域振興
 原電の地域へもたらす影響は、建設時の雇用の増大(第六章第二節一、図73)や社員・作業員の消費支出の波及効果などがあるが、原電は一般に地域産業との有機的な結びつきが弱いことがしばしば指摘される。原電による地域振興とは、現実には関連自治体の財政力の向上をとおした住民福祉のための諸施策の実施を意味していた。そこで、ここでは原電立地自治体財政を中心に地域振興のしくみを眺めておこう。
 表154は、福井県、嶺北の中核都市である福井市・武生市・鯖江市、原電立地四市町、その他の市および町村の歳入について、その金額と各項目の比重の推移を示したものであるが、これをみると原電立地自治体財政の特殊性がひと目でわかる。

表154 県、市町村の歳入(1970〜89年度一般会計、各4か年度平均)

表154 県、市町村の歳入(1970〜89年度一般会計、各4か年度平均)
 第一に、原電立地市町の歳入の伸びが他に抜きんでて大きい。しかも自主財源の中心である地方税収入の歳入に占める比率が高く、経済取引の中心である都市部(福井市・武生市・鯖江市)の地方税収比率に匹敵するほどとなっている。そして、後者では住民税と固定資産税がほぼバランスのとれた比重であるのに対し、原電立地市町では固定資産税の比重が著しく大きい。ただし、さきにも述べたように原電の減価償却期間は一五年となっており、償却の進行にともない償却資産は年々減少し、したがって一基ごとの固定資産税収も漸減することになる。
 第二に、国庫および県からの支出金(補助金)が二〇%強を占めているが、これは他の市町村と比較すると、おおむね数ポイント高い比率となっている。この差はいうまでもなく原電立地にともなう交付金の存在により説明される。また、こうした電源立地関連の交付金は、のちにみるように公共施設や社会基盤整備に広く充当される一種の包括補助金であるため、他の自治体であれば地方債の起債により資金調達を行うこれらの事業について、原電立地市町は負債を最小限にして実施することが可能となった。このことは地方債の大幅な縮小に反映している。さらに寄付金の水準の高さも特異であり、原電立地関連交付金の水準とほぼ等しくなっている。この寄付金も、各種施設の建設や事業の協力金、また自治体の振興計画の資金的裏づけとして拠出され、使途の制約の少ない財源としてやはり地方債に代替するものとなっている。表155は、電気事業者による敦賀市への寄付金拠出の状況について列挙したものである。なお、これら企業からの寄付金は、自治体のみならず各種の商工・農林水産関連の諸団体や第三セクター、地元住民組織・団体などの事業・行事にも相当額が提供されており、その全容を把握することは難しい。

表155 敦賀市への電気事業者寄付状況(1975〜85年度)

表155 敦賀市への電気事業者寄付状況(1975〜85年度)
 第三に、寄付金を含む自主財源の比率の高さを反映して地方交付税の比率が極端な縮小傾向を示している。原電立地により富裕団体となった自治体の典型は大飯町で、同町は一九七〇年(昭和四五)五月に「過疎地域対策緊急措置法」による過疎地域指定をうけたが、七〇年度に〇・二二であった財政力指数(基準財政収入額/基準財政需要額の過去三か年平均値)は七〇年代末から急速に上昇した。七八年度には〇・四一と、過疎地域指定の上限〇・四〇を上回り、八〇年度には一・〇〇をこえ、八三年度には二・〇〇をも上回るというように、急速な超富裕団体への転身ぶりをみせた。
 このように原電立地自治体財政の特徴は、自主財源の充実と、比較的使途が自由な原電立地関連交付金と寄付金による住民福祉事業の実施にあるといえよう。そこで、最後に、電源三法交付金制度のしくみとその使途についてふれておこう。
 電源三法交付金制度は、まず販売電力量に応じて電気事業者に電源開発促進税を課税し、これを電源開発促進対策特別会計に組み入れる。同会計の支出は、電源多様化対策に要する電源多様化勘定と電源立地勘定に分かれ、後者がいわゆる電源三法交付金である。福井県における同交付金の交付実績は表156のとおりであるが、その中心は、原電立地市町および周辺市町村における公共施設整備事業等に充当される電源立地促進対策交付金(県庁所管は市町村課)である。また、前述したように電源立地特別交付金が、電気料金の割引に充当される原子力発電施設等周辺地域交付金(地域振興課所管)と地域の工場誘致等に振りむけられる電力移出県等交付金(工業技術課所管)の二種類の交付金制度として八一年度から発足し、金額としては電源立地促進対策交付金につぐ大きさとなっている。さらに表156注2に列挙したように、「発電用施設の設置の円滑化に資する」措置として、各種の安全対策等交付金・補助金があり、県では市町村課・地域振興課・原子力安全対策課・水産課が各交付金・補助金を管轄している。

表156 電源三法交付金等交付実績(1974〜89年度)

表156 電源三法交付金等交付実績(1974〜89年度)
 電源立地促進対策交付金の使途は一三項目にわたる事業が指定されており、表157に使途別交付実績を掲げた。一貫して金額の大きい項目は「教育文化施設」で、小中学校・公民館・集会所などの新改築や体育館・プールなど学校施設の建設および敷地造成が中心である。ついで大きいのは「道路」であり、件数は一番多く集落内外の道路敷設・改良事業が中心となっている。八〇年代になりふえてきたものをいくつかあげると、まず「産業の振興に寄与する施設」「国土保全施設」がある。前者は、敦賀市の地方卸売市場施設や上中町の若狭中核工業団地関連事業のように商工業に資するものもあるが、件数では農道・林道・農林水産施設などの事業が多くを占めており、治山治水事業に供される後者も含め、農山漁村地域の公共事業の増大に貢献している。また、高齢者むけ施設や保育所などの「社会福祉施設」や「医療施設」「水道」(上水道・簡易水道)や排水路・ゴミ処理施設・葬祭場などの「環境衛生施設」など、いわゆる民生関連施設の充実がみられるとともに、運動場・体育館・テニスコートなどの「スポーツ・レクリエーション施設」の建設もめだっている(福井県県民生活部『電源立地関係資料集』、福井県『市町村財政要覧』、大坂健『都市財政構造の変容』)。

表157 電源立地促進対策交付金使途別交付実績(1974〜89年度)

表157 電源立地促進対策交付金使途別交付実績(1974〜89年度)



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