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 第五章 転換期の福井県
   第一節 「夜明け前県政」と産業基盤整備
    二 産業基盤整備の進展
      福井県総合開発計画
 この時期の政策課題は、全国的に産業基盤整備のために莫大な公的資金を投入し総合的な開発を行うということ一色に染め上げられていた。福井県もその流れのなかにあり、その流れに乗らんとして「福井県総合開発計画」を策定し、基盤整備事業のための公社組織を整備し、各種公共事業の誘致につとめたのである。
 高度成長期の総合開発法制は、一方で「首都圏整備法」(一九五六年)などの既成大都市圏整備を行うとともに他方では後進地域開発諸法の制定へとむかった。一九五九年(昭和三四)三月の「九州地方開発促進法」にはじまり、六〇年一二月には「北陸地方開発促進法」が成立した(表121)。これらは各地域が地域選出議員を動かして成立させた議員立法であった。国の財政投資が既成大都市圏に集中していく傾向に反発して、後進地域がその工業化の促進による後進性脱却と地域格差の是正をはかろうとしたというとらえ方ができるだろう。これらの地域開発諸法は、各地方開発促進計画を内閣総理大臣に作成させ、各省の事業計画について経済企画庁長官が調整を行うことと、この計画にもとづく公共事業の国庫補助率を引き上げ、重要事業に認定されたものについては地方財政再建計画に縛られないなどの財政優遇措置を規定したにすぎなかった。しかし、こうした地域開発諸法の制定は、対象地域において開発に関する基本構想を策定する動きを生みだした(西尾勝「過疎と過密の政治行政」日本政治学会『五五年体制の形成と崩壊』、『福井新聞』60・5・11)。

表121 地方開発立法

表121 地方開発立法
 福井県でも六〇年二月一日、総合開発審議会を復活させ、北陸地方開発促進法制定の気運をうけて、地方開発の基本計画や県の総合開発計画を策定させることとした。この審議会は五〇年の「国土総合開発法」制定にもとづいて設立されたが、その後委員の任期が切れて開店休業状態になっていたものである。翌六一年一月一六日の第三回審議会において知事に対する答申として発表された総合開発計画は、目標年次を一〇年後の七〇年に定め、一〇年間で一人あたり県民所得を二・四倍にするべく県民総生産を年八%ずつ成長させるというものであった(『福井新聞』60・2・2、4・6、61・1・17)。この目標を達成するために、以下の主要課題を設定していた。
 まず第一に、第一次産業中心で第二次産業も圧倒的に繊維産業を中心とする産業構造の後進性からの脱皮を唱え、いっきに臨海型の重化学工業の育成をめざすのではなく、機械工業などの内陸型工業を育成するとしている。そのために、北陸線の複線電化、北陸高速自動車道、国道八号、敦賀港をはじめとする諸港湾、空港、電力施設、工場用地などの立地条件を整備する。北知事が執心の日本海と太平洋をつなぐ中部(日本)横断運河についても「将来の重大関心事項として……一つの懸案事項とする」としてふれている。第二に、人的能力の向上をめざして教育をとくに重視し、科学教育、職業訓練の充実に重点をおき、工業高校の新設などを計画する。その一方で、低所得層などへの社会福祉政策も充実させ、また、「県民精神」を「清新躍動」させる契機として、六二年の国土緑化大会と植樹祭、および六八年招致予定の第二三回国民体育大会にもふれている。第三に、農業については「米の特産県」として進むとともに畜産、果樹、野菜の適地適産や乾田化、協業化等を通じて企業的に自立させる。第四に、工業生産額を年率八・五%に伸ばし、目標年次には約二・七倍とする。とくに躍進を期待する機械工業には八倍、金属工業には六倍の高い伸びを設定する。第五に観光事業にふれ、各観光地を整備し一〇年後には五倍の観光客を招く。第六に、当時進行中であった北陸、近畿圏、中部圏など各ブロックの開発関連法や各省庁の開発構想にふれて、こうした広域提携も積極的に進める。第七に、こうした開発を支える財政にもふれ、政府資金など県外資金を積極的に導入するとともに、県下金融機関の預貸率を現在の五九・二%から七五%に改善する、としている。この一〇年間の総合開発事業に投じられる財政資金は一七五一億八九〇〇万円、民間資金は三〇六五億二六〇〇万円、総額四八一七億一五〇〇万円を予定していた。
 こうした施策により、計画完成年度には、基準年次(五六年から五八年の三年間の平均)に比べて人口が一〇一・二%、就業人口一〇五・四%となり、総生産は二五〇・八%、鉱工業生産水準は二六六・七%、農林水産業生産水準は一五六・五%に達するとされた(表122)(福井県『福井県総合開発計画書』、福井県経済調査協会『後進県よさようなら 十年後の福井県』)。

表122 「福井県総合開発計画」の主要経済指標 

表122 「福井県総合開発計画」の主要経済指標 



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