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 第二章 日中戦争から太平洋戦争へ
   第一節 戦争動員体制の強化
    五 戦争と県民生活
      「常会徹底事項」と銃後
 一九四一年(昭和一六)一一月二〇日に「常会定例日ノ設定ニ関スル件」が内務省地方局長より通牒され、市町村常会、部落会、町内会常会、隣保班常会を毎月一定の間隔をおいて開くことにした。また、対米英開戦三日後の一二月一一日、「常会徹底事項ノ調整方策」が次官会議で決定された。ともに、常会を通じてより効率的に国策の浸透をはかるための措置であった(『資料日本現代史』12)。
 福井県ではすでに四〇年早々から、常会徹底事項に類するものが出されていた。四〇年度の福井県国民精神総動員運動実施要領によって、二月より刊行された『福井県総動員時報』(一二月からは『福井県常会時報』と改称)には「今月の常会に於ける協議懇談事項例」が掲載された。当初は、花見遊山の自粛、国債の購入、堆肥の増産計画などと事項のみが列挙されていたが、徐々に細かな指示内容が添えられるようになっていき、四一年七月には「協議懇談事項」となり、さらに前述の政府の決定により四二年一月からは「常会徹底事項」となった。その名称の変化からも行政の国策浸透強化の姿勢がうかがえるが、以下常会徹底事項からみた県下の銃後状況について述べよう。
写真32 『福井県常会時報』

写真32 『福井県常会時報』

 四二年一月の福井県の常会徹底事項は、「必勝の誓」「百七十億貯蓄の達成」「鉄銅回収の強化」「新年度実施計画」「冬期間裏作の管理に万全の注意を払ひませう」で、前の三つは中央の常会徹底事項と同じであり、後の二つは県がつけ加えたものである(中央ではこのほかに「国民皆働の決戦生活確立」と「国土防衛の強化徹底」があった)。この最初にあげられている「必勝の誓」のような事項は戦局が悪化するにしたがい、「一億の憤激で勝ち抜かう」や「一億総体当り、断じて醜敵撃摧」などとエスカレートした文字が、事項の前文として総論的におかれるようになる。戦争末期の四五年六月の常会徹底事項の前文は、つぎのように述べられている。
  醜敵をむかへ撃つて沖縄は決戦今や酣である、陸に、海に、空に、皇軍将兵の必殺の
  敢闘に応へて、沖縄県人は老となく、幼となく倶に皇国護持の道に殉じつゝある、吾等
  は神州不滅を信じ御神勅に基く必勝の信念に生きよう、さあ各々職域に本土決戦の肚
  を固めよう、六月の常会徹底事項はかく決つた
 このように、常会徹底事項はなにより戦争に対する国民の士気を高めるために出されたものであったが、表52により、四〇年三月から四五年七月までの協議懇談事項例、協議懇談事項、常会徹底事項をあわせた三一五件の内容をみると、銃後にもっとも期待されたのは、戦争遂行のための食糧の増産供出であり、また貯蓄増強と金属回収であったといえる。衛生・体力向上は、こうした三つの国策を実現させるための健康と体力維持のためのものであり、さらには健康な兵士を戦線に補充するためのものであった。一方、表52は戦争遂行に直接結びつかない軍事援護や防空訓練などへの取組みが、消極的であったことも示している。

表52 常会徹底事項のおもな内容(1940年3月〜45年7月)

表52 常会徹底事項のおもな内容(1940年3月〜45年7月)

表53 国民貯蓄の年次別状況(1938〜45年度)

表53 国民貯蓄の年次別状況(1938〜45年度)
 この常会徹底事項よりうかびあがってくる銃後に課せられた三大任務を、県民は聖戦のためとして、多大な犠牲を強いられながらも遂行していくことになる。国民貯蓄の達成率は表53にみるように、三八年から四一年まで福井県は全国一、二位の好成績を残すが、四二年以降は全国中位にまで落ち込んでくる。四五年四月の常会徹底事項は、四五年度の六億円の国民貯蓄が福井県に割り当てられたことを「驕敵覆滅」のための尊い義務であるとし、つぎのように述べていた。
  われわれお互は支那事変以来政府の割当目標を遥かに突破し、赫々たる戦果を収め
  て来たのだ。この底知れぬ頑張りと滅敵の闘魂を持つてゐるのだ。今年の六億円も必
  ず突破出来る。さあ、この貯蓄戦を勝ち抜くために一層の工夫を凝らさう。県民一人残
  らず貯蓄戦に体当たりだ
 しかし、こうした強制的同質化を求めるかけ声にもかかわらず、食糧の増産供出は、前述したように粥しか食べられないまでに農民を追い詰め、また鍋・釜・包丁・農具にまでおよんだ金属回収は県民の窮乏化に拍車をかけた。戦争は、県民からあらゆるものを略奪していき、ほとんどすべての現金を預けることになった国民貯蓄も、戦後の預金封鎖とインフレでほぼ無に帰してしまうことになる。まさに根こそぎ動員であった。
写真33 梵鐘の供出

写真33 梵鐘の供出



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