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 第一章 昭和恐慌から準戦時体制へ
   第四節 恐慌下の商工業
    一 「人絹王国」の誕生
      人絹織物工業組合の設立
 一九二三年(大正一二)四月に福井県輸出綿布同盟会(同盟会)が結成され、取引改善・自主統制に着手し、二九年(昭和四)一月には福井県輸出人絹綿布同盟会と改称し、人絹織物工業組合設立を提唱した。三一年四月には同盟会を母体に福井県人絹織物工業組合定款起草委員会が設置され、第一回委員会において品種は人絹織物のみならず人絹交織物を加えること、組合の範囲は県下一円とすることなどが確認された(『福井県繊維産業史』)。
 一〇月一二日、福井市加賀屋座において開催された同盟会総会は、新会長に土田幸作を選出し、人絹織物工業組合設立を決議した。同盟会会員数は約一二〇〇名といわれ、総会参加者も八六〇名に達し、選出された役員も地区別に七二名を数える大所帯であり、県下一円の工業組合設立は難航することが予想された(『福井新聞』31・10・13)。しかし、商工省は、泉州の人絹織物工業組合設立について既設の綿織物工業組合と組合員が重複していることを理由に中止させ、群小工業組合の設立を抑制する態度をとった(『福井新聞』31・11・5)。先行する羽二重工業組合も不況の深化により日本羽工連が行う生産割当が過大になるなどの問題をおこしており、人絹織物工業組合設立は当分の間見合わせることになった(『福井新聞』32・1・23、4・16)。
 人絹織物のなかで最初に工業組合を結成したのはボイル業者であった。彼らは、すでに三二年二月一日より任意団体である福井ボイル組合により生産統制を行い、二月中の県下生産数量は二万三〇〇〇疋と定められていた(『福井新聞』32・1・26、2・5)。こうした実績をもとに同年一〇月には工業組合の認可申請を行い、一〇月二七日福井県人絹ボイル工業組合が県下一円を範囲として設立され、組合員数は三六年末現在で一七二名を数えた(福井県織物同業組合『五十年史』)。
写真17 人絹織物工業組合の設立

写真17 人絹織物工業組合の設立

 三二年下半期から三四年上半期にかけては円為替下落を武器に人絹織物輸出・生産が急増し、人絹王国の全盛時代を現出した。この間工業組合設立の動きはみられない。しかし三四年五月三〇日の『福井新聞』が羽二重の教訓を引きながら好況期にこそ工業組合を組織し景気反動に備えよ、と主張していることが注目される。同盟会を軸とする人絹織物工業組合設立の動きは同年六月から再開された(『福井新聞』34・6・8)。土田同盟会会長は、「必らず生産過剰時代が到来して当業者は苦境に陥る」として工業組合設立を説いた(『福井新聞』34・6・9)。八月には県下六地区に工業組合を設立し、県連合会をつくる案が同盟会において可決され、定款案も発表された(『福井新聞』34・8・23)。福井の機業家が工業組合設立に転じた理由として、このころ全国レベルの人絹織物工業組合連合会の設立が計画されており、このままでは最大の産地である福井県ぬきで結成される可能性があったことである。土田会長は、連合会設立を延期するよう商工省に働きかけていた。九月には工業組合の区域割について七組合案から一三組合案まで飛び出し、紆余曲折の末、九月二六日から二八日にかけて地域別に八組合、品種別に一組合の創立総会が開かれた(『福井県繊維産業史』)。
 なお、これらの九組合は、いっせいに一一月七日、第一回総会を開き、設立が予定されていた全国連合会および県連合会への加入を決議した。
 一方、全国の人絹織物業者の組織化もこの年に進展した。すでに人絹染色業者が染工連を結成していたが、岩田久吉染工連専務は三四年三月一三日鶴岡、マルサン(石川)、福井県人絹ボイル、岐阜、足利、桐生、川俣、佐野、大阪、米沢の各人絹織物工業組合に対して「連合会設立に関する意見」を送付している。これを契機に八月一三日にはマルサン、岐阜、足利、福井県人絹ボイル、大阪、佐野の六組合の代表が発起人会を開き、日本人造絹織物工業組合連合会設立要綱を作成した(『日本絹人絹織物史』)。かくして福井の各人絹織物工業組合の結成を待って、一一月九日に日本輸出人造絹織物工業組合連合会(人工連)創立総会が行われたのである。
 福井県人工連については県織物同業組合との関係が問題となったが、一一月二二日に中島与作県織物同業組合長が人絹一〇工業組合の理事長を集め、両機関の併立、県人工連理事長と県織物同業組合長との兼任などを確認した。一二月二六日福井県輸出人造絹織物工業組合連合会創立総会が開かれ、理事長に山田仙之助が選出された(『福井県繊維産業史』)。
 なお、絹紬業者は、三四年一二月一七日福井県北部輸出絹紬工業組合、福井県南部輸出絹紬工業組合を設立した(福井県織物同業組合『五十年史』)。



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