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 第一章 昭和恐慌から準戦時体制へ
   第三節 教育の再編と民衆娯楽
     二 社会教育と県民教化
      社会教育委員の設置
 文部省には一九二九年(昭和四)七月、すでに前年内務省社会局から移管されていた青年団体・教化団体に関する事務とともに、実業補習学校関係事務とあわせて社会教育行政を所轄する、社会教育局が新設された。
 一般成人を対象とした講座としては、二六年(大正一五)一〇月から文部省主催の成人教育講座が開催された。これは同年度から文部省が全国的に実施したもので、福井県内でも日曜日ごとに一〇回、福井高等工業学校を会場に同校の教授や県内務部長、福井地方裁判所判事らを講師として開催された。二〇五名の受講申込者(中等教育卒業者八二名、高等小学校卒業者九五名)があり、三〇年二月から三月にかけての講座では五八八名に増加した。この講座の出席率は九割をこえる「全国稀に見る好成績」であり、「如何に正規に学校教育をうけ得られない篤志家が独学の熱に燃えてゐるかが判る」として、県社会課では常設的な講座の設置を計画したいとした(『福井新聞』26・7・23、10・15、30・3・18)。同じ三月に武生公会堂を会場に開かれた県主催の成人講座も受講者二八八名中修了証書授与者二三八名と好評であり、この県主催の成人講座は、三一年三月に福井市で、三二年三月には武生町と小浜町で開催された。
 また同年からは、衆議院議員の各選挙区ごとに一会場開設されることとなった公民教育講座が文部省と県の主催で一一月に武生町で開催された。さらに工場労働者を対象としては、翌三三年一月に県内初の「労務者講座」が県立福井工業学校で開設されていた。これらは、いずれも「善良なる立憲政治の民たる素地を育成」するための公民教育や社会政策的見地からの労働者対策ではあったが、県内都市部を中心とした独学者層にとって、限られた学習機会として受け入れられていたといえよう。
 市町村の社会教育・教化事業を推進する機関としては、三二年七月、社会教育委員が設置された(県告示第三四二号)。これは、文部省の通牒に対応して全国的に設置されたもので、委員は名誉職で社会教育の普及・奨励、各種団体との連携協力などをはかるとされた。委員数は町村では一〇名、市では二〇名前後とされ、学校関係職員、市町村職員、市町村会議員、学務委員、在郷軍人会、成人団体、青年団体、宗教家などから市町村長の推せんによって知事が嘱託するものとされた。



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