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 第六章 「地方の時代」の諸問題
  第一節 地域開発施策の展開
    二 福井臨海工業地帯造成計画の軌跡
      臨工財政の危機
 企業誘致の難航は臨工事業の資金計画の破綻を招き、県は臨工への一般財源の投入を県議会に懇請せざるをえない状況となり、この結果、前項でみたように中川知事と県会自民党との関係にも大きな変化をもたらすことになった。一般会計の投入問題が最初に県議会で議論されたのは、工業用水の給水開始にもかかわらず製錬工場進出中止が決定し、工業用水道会計に見通しが立たなくなった一九七八年度(昭和五三)予算の審議のさいであった。知事は一般会計から工業用水道会計へ約二億八〇〇〇万円を貸し付けるという案を提出したが、県議会は一般会計からの支出がなし崩し的に継続することを懸念して難色を示した。知事から代案として、うち約五〇〇〇万円を公営企業会計のなかの電気事業会計の剰余金からまかない、残額については一般会計(財政調整基金)より借り入れて年度末に返済するという案が出されたが、県議会側は会期延長に持ち込み、結局知事の釈明と今回の一般会計からの拠出を前例としないということを条件にこの案を了承した。
 一般会計の投入問題がふたたび持ち上がるのは、八〇年代に入ってからである。臨工事業にかかわる公営企業会計には「臨海工業用地等造成事業会計」と「工業用水道事業会計」のなかの「臨海工業用水道分」との二種類の会計があるが、まず前者の状況をみてみよう(表149 表149 福井臨海工業用地等造成事業決算(資本的収入および支出)(1971〜93年度))。用地等造成事業の起債は七七年におおむね終わり、以後年三〇億円以上の元利償還が残された。七九、八〇年度には土地売却が停滞し償還の困難が予想されたが、石油備蓄基地の誘致による土地売却により救われる格好となった。ただし、備蓄基地の造成にともなう支出も大きく、八二年度には一般会計から五〇億円を借り入れることとなった。また同年度から五年間、他会計補助金が計上された。これは八一年度創設の電源立地特別交付金制度のうちの電力移出県等交付金の一部を企業立地促進対策補助金として道路整備事業に拠出し、事業会計を支援する措置であった。結果的にみると用地等造成事業会計は、八一年度以降の巨額の土地売却により難局を乗りきったかたちになる。ただし、八一年度から八四年度までの土地売却総額約四五〇億円の内訳をみると、石油公団(備蓄基地)二三四億円、北陸電力(燃料多様化対策などを目的とする買増し)八六億円、公害防止事業団(緩衝緑地帯造成)一七億円、福井県産業廃棄公社(産業廃棄物処理センター)一七億円などの非製造業事業者、また動力炉・核燃料開発事業団二五億円、三菱金属・三菱重工業二二億円というように原子力関係事業者への大口の売却が八割を占めていた。
 県議会における論議の中心は後者にあった。表150(表150 福井臨海工業用水道事業損益および企業債・長期借入金の年度末残高(1978〜93年度))にあるように、臨海工業用水道は連年一億円以上の純損失を計上していた。実質的には損失はこれをはるかに上回っていた。というのは、七八年度の事業開始から五年間、ほぼ唯一の給水先である共同火力発電所に対してトンあたり基本単価二七円に二三円の協力料金を上乗せした料金で工業用水を売却したのに加えて、協力金として毎年度一億円を同発電所より受け取っていたからである。八〇年度予算案の審議のなかで県は当該会計の資金繰りが八二年度以降限界に達するので一般会計からの貸付が必要との意向を示していたが、これが焦眉の事態となるのは、八〇年の古河アルミの圧延工場建設計画発表にともない、現行の取水口では低塩分の用水の確保に支障があることが判明してからであった。第二取水口の設置(のちに福井市舟橋町に決定)のための調査費四五〇〇万円が八一年度予算案に計上されたが、工事に必要な約二八億円の調達に必要な企業債の発行について一般財源投入による返済計画が立たなければ国が認めないという理由で、県は調査費と新規企業債の償還に関する一般財源の投入をセットで承認するよう県議会に求めた。県議会は紛糾し七八年以来の会期延長となり、結局一般財源投入については後日、自民党と理事者の意見交換の場で議論するということで調査費のみが承認された。現実問題として一般財源投入は不可避であり、県政の主導権を得た県会自民党は、さきにふれた八二年度予算における五〇億円の一般会計から造成事業会計への貸付を、知事による企業誘致への「かつてない決意」の表明と引替えに承認し、また八三年度には工業用水道会計の企業債償還を可能とする一般会計からの貸付を了承した。このころになると、さきにみた造成事業会計に余裕が生じてきたため、同会計から資金の融通をはかるとともに、八五年度からは工業用水道会計の改善のために、一般および造成事業両会計からの貸付による企業債償還の前倒しが行われた。
 なお、この臨海工業用水道第二取水口の建設にからんで派生的に浮上した問題に足羽川ダム建設問題がある。足羽川上流の美山町蔵作をダムサイトとしてロックフィル式ダムを建設するという足羽川ダム建設計画は、六七年度から建設省が直轄事業として予備調査を進めてきたが、地元美山町議会では七〇年、八〇年の二度にわたり建設反対の決議を行い、中川知事も二、三の小規模なダムの建設が望ましいとの見解であった。しかし第二取水口の水利権の許可を建設省に申請したさいに、同省が足羽川ダムの建設によるあらたな水源の確保を条件としたために、県もダム建設の積極的な推進へと転換した。八二年二月には美山町天田地区で建設省・県による初の地元説明会が開催され、五〇年代の水資源開発期よりくすぶり続けていた足羽川ダム建設問題がいよいよ具体化することになったのである(『朝日新聞』78・3・4、21、25、『福井新聞』80・3・11、15、18、7・5、12・16、81・2・21、3・18、25、6・24、7・5、9・19、10・6、12・19、82・2・16、83・3・1、84・2・16、『福井臨海工業地帯等造成事業決算報告書』)。



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