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 第五章 転換期の福井県
   第二節 県民生活の変容
    三 深刻化する公害問題
      微量重金属による汚染
 イタイイタイ病、水俣病のように、製錬所や化学工場などから排出されるカドミウム、有機水銀などの微量重金属の蓄積がもたらす住民の健康や生活環境へおよぼす影響の深刻さをようやく認識するにいたった政府は、一九六八年(昭和四三)ころから全国的な微量重金属による汚染調査に乗りだした。これをきっかけとして福井県でもカドミウム汚染や有機水銀汚染の実態が明るみに出ることになり、「公害問題」は全県的な関心の的となっていった。
 まず、カドミウム汚染についてみてみよう。六八年一一月、県は厚生省より日本亜鉛鉱業中竜鉱業所の廃液・廃滓等の処理、環境汚染調査の早急実施を求める通知を受け取った。そこで県は六九年九月、大阪通産局の協力を得て中竜鉱業所の排水口付近の水質、土壤について極秘に調査を進めた。七〇年四月にこの調査のさいに利水地点の藤倉川上流で〇・〇〇二ppm、排水口から〇・〇二二ppmのカドミウムが検出されながら県がデータを秘匿していたことが発覚した。数値自体は厚生省の暫定基準である利水点〇・〇一ppm、排水〇・一ppmを下回る数値であったが県の公害に対する姿勢を疑問視する声があがった。このため五月末、県は鉱業所付近の水質、川底の土を採取するとともに、大野保健所が大野市富田地区住民の健康診断を実施した。
 ところが六月はじめ、公明党調査団が現地視察したさい、さきの前年九月の調査で排水口下流の大野郡和泉村上大納の大納川の泥土から最高一三・一五ppm、下大納の水田の土壤から最高六・六五ppmのカドミウムが検出されていたことが明らかとなった。これは住民の県に対する不信を増幅するとともに、富山県の例では五ppmから七ppmのカドミウムが土壌から検出された水田で収穫された米に一ppm前後のカドミウムが含まれていただけに、収穫米の汚染が懸念される事態となった。このため、米消費地における福井県産米全体への不安が高まり、県では不安解消のために各地に説明に出向く一方、急いで六九年度産米の検査を行った。その結果、下大納の汚染田から厚生省の玄米に関する暫定基準〇・四ppmを上回る〇・五八ppmのカドミウムの残留が検出された。さらに一二月に公表された七〇年度産米の調査では同地区の玄米から暫定基準を上回るもの(最高二・一一ppm)が検出され、下大納地区の米五トン(すべて自家消費米)が回収された。
 その後、七一年秋からようやく県・和泉村では善後策に乗りだし、とくに汚染のひどい下大納の水田三七アールを休耕田とするとともに上大納の水田には中和剤を散布して土壤の還元をはかった。さらに七二年三月、下大納の休耕農家五戸に対し、日本亜鉛鉱業が損害補償として毎年三・三平方メートルあたり米価〇・九キログラムに相当する補償金を支払うことで補償契約書の調印をみた。
 カドミウム汚染については、このほかに、敦賀市の日本鉱業敦賀工場の濃硫酸製造廃液に関する調査も行われた。七〇年七月には排水口のある深川の木ノ芽川合流地点付近の泥から最高四一・五ppmのカドミウムが検出され、同工場では汚泥の回収を行った(『朝日新聞』70・4・5、6・3、9、72・3・7、『福井新聞』70・6・10、『中日新聞』70・7・21、9・17、12・24、『サンケイ新聞』70・7・21、71・9・21、12・2、福井県『公害白書』七二年度版)。
 一方、有機水銀による汚染については、六八年一二月、経済企画庁がカーバイド・アセチレン法塩化ビニル製造工場など全国四九工場の周辺地域をメチル水銀の水質検査水域に指定し、福井県では日信化学工業武生工場の排水が放流されている武生市御清水川が水域指定をうけた。県では六九年七月からやはり極秘で調査を進め、御清水川の川水から総水銀最高〇・〇〇四ppm(厚生省の定量限界基準〇・〇二ppm)、泥土から最高一三・九ppmの総水銀が検出され、さらに同工場では水銀汚染排水が工場内の沈澱池に放出されていた事実が判明し、地下浸透による汚染の可能性も懸念される事態となった。
 はからずも、七〇年一一月、厚生省の水銀汚染緊急総点検による県の調査により、御清水川の日野川合流点下流の白鬼女橋(鯖江市下鯖江)付近の川魚から最高一・六九ppm、平均一・一二ppmの総水銀が検出された。検査件数の七六%が一ppmをこえており、これは国の基準である二〇%を上回っていた。さらに七一年五月に行われた第一次精密検査では、武生市北府本町の福井鉄道鉄橋・鯖江市有定町の有定橋間より採取された魚から前回を上回る最高四・〇四ppm、平均一・八ppmの総水銀が検出され(一ppmをこえる件数は全体の六六・三%)、県ではこの区間水域の魚類の採取・摂取の自粛を呼びかけるとともに、日信化学に対して対策を要請した。同社では沈澱池の底を粘土で固めるとともに、水銀触媒による塩化ビニル製造をとりやめた。七二年度調査では一ppmをこえる件数が一四%と基準以内になったものの、日野川では七六年になってもフナ・ニゴイについて、国の暫定的規制値(総水銀〇・四ppm)を上回る状況であった。
 こうした重金属による汚染は、このほかにも小浜湾や日野川の他の水域などで検出され、水銀・鉛・シアン・有機リン・砒素・六価クロムなどの使用工場に対する県民の不安は増大した。そのため県では七一年一二月、メッキ関係・鉛再生・紙パルプ・医薬品製造・プラスチック製品製造・硫酸製造の計三七工場を指定し、きびしい規制のもとにおくことに決めた(『サンケイ新聞』70・5・26、『福井新聞』70・7・19、『中日新聞』70・12・27、『朝日新聞』71・5・15、11・23、76・4・21、『毎日新聞』71・12・1、福井県『公害白書』七二・七三年度版)。



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