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 第二章 日中戦争から太平洋戦争へ
   第二節 産業・経済の戦時統制
    二 戦時下の林業
      部落有林統一政策の後退
 戦時経済統制下の林業の展開を立体的にとらえるためにまず、昭和恐慌期を中心とした国・福井県の林業政策の展開過程を簡単にみておこう。部落有林の所有権を町村に移転し、入会地も整理して町村有林野を拡大する、部落有林統一政策は明治末期以降林業政策のひとつの柱として推進されてきた。農山村の大多数の農民にとって、部落有入会林野は堆厩肥・薪炭材の供給源として不可欠であったから、統一には当初から根強い抵抗があった。昭和恐慌に直撃されると、これまで統一政策を支持してきた農村の支配層からも困窮した村を救うため統一の緩和が求められるにいたる。農林省も部落の意思を尊重して私法的手続きをとるよう各府県知事へ通牒を出さざるをえなくなった。さらに一九三二年(昭和七)からはじめられた農村経済更生運動では部落を運動の中心に据えた。部落割拠主義の弊をとりのぞくための部落有林統一政策とは明らかに矛盾することとなった。こうして戦時統制下の三九年の「森林法」改正を機に統一政策は打ち切られた(『講座日本近代法発達史』10)。
 福井県下における部落有林統一の進捗状況も表57に示したとおり停滞している。統一政策が打ち切られた三九年には部落有林野面積はわずかながら増加している。『福井県林業一覧』によると、入会地の整理状況も大きな進展はみられず、二七年から八年間に整理された林野面積は約一七〇〇町歩にとどまっている。

表57 部落有林統一の進捗状況(1927〜39年)

表57 部落有林統一の進捗状況(1927〜39年)



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