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 第七章 若越の文学と仏教
   第一節 郷土と文学
    二 『万葉集』と歌謡
      『古今和歌集』などの歌
 『古今和歌集』その他に、越前に関する若干の歌が残っているが、たんに地名をよみこんだのみの歌が多い。まず『古今和歌集』には「かへる山」がみえる歌として、
    あひ知れる人の越国にまかりて、年経て京にまうできて、また帰りける時に、よめる
  かへる山何ぞはありてあるかひは来てもとまらぬ名にこそありけれ 凡河内躬恒
『後撰和歌集』には、「つるが」「かへるの山」がみえる歌として、
    あひ知りて侍りける人の、あからさまに越の国へまかりけるに、幣心ざすとて
  我をのみ思ひつるがの越ならばかへるの山は惑はざらまし 読人しらず
また、『金葉和歌集』には、
    男につきて越中の国にまかりたりけるに、男の心かはりて常にはしためなければ、
    都なる親のもとへつかはしける
  うち頼む人のこころは有乳山こしぢくやしき旅にもあるかな 読人しらず
『続詞花和歌集』には、「あすはの宮」のみえる歌として、
    藤原盛房、越前のあすはの宮にまゐりて又の日かへるとてかくいへりければ、すゑ
    をともなるさぶらひつけける
  昨日きてけふこそかへれあすはより三日のはらゆく心ちこそすれ 読人しらず
などがある。とくに『夫木和歌抄』にみえる次の歌は、おそらくは嘱目の景とみえて出色の作である。
    けひのうみ 飼飯 越前
    題しらず
  けひの海のにはよくあらしかりこものみだれて見ゆる海士の釣舟 読人しらず



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