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 第二章 若越地域の形成
   第一節 古墳は語る
    三 王者の棺―石棺―にみる地域色
      越前の北部に偏在する石棺
 越前は、全国的にみて石棺の出土数の多い地域である。北陸道域のなかで、古墳時代の前・中・後期の各期の石棺が発見されているのは、越前のみである。加賀や能登で後期の石棺(組合式石棺)が若干発見されているが、そのほかの地域ではまったくみられない。ここでは、古墳時代の越前の地域的特徴の一つである石棺についてみてみよう。
 越前での石棺の発見は、江戸時代にまでさかのぼり、現在までに二八個が確認されている(表6)。しかし、実際は過去の記録に記載があるものの現在確認されていない石棺や、石棺の所在が予想される古墳を含むとこれ以上の数になる。

表6 越前の石棺

表6 越前の石棺
 これを越前の基礎単位地域ごとにみていくと、金津地域(刳抜式石棺〇、組合式石棺二)、丸岡地域(二、一)、福井高須地域(一、〇)、福井足羽地域(八、一)、福井東郷地域(〇、一)、福井酒生地域(一、一)、松岡地域(九、〇)、不明(一、〇)となり、越前の北部に偏在することがわかる。とくに、福井足羽地域と松岡地域とに集中し、合わせて全体の約六割を占めている(図24)。
図24 越前における石棺の分布

図24 越前における石棺の分布
〔刳抜式石棺〕    〔組合式石棺〕
割竹形石棺    ★ 箱形石棺
● 舟形石棺    ■ 岩屋形石棺
○ ?                  
注) 図中の1〜28は表6の番号に対応している。

              
  越前の石棺の石材は、春日山古墳(松岡町)、椀貸山一号墳(丸岡町)、神奈備山古墳(金津町)を除いたほかはすべて、福井市足羽山産の笏谷石(凝灰岩)であるとの見方が多い。ただし、研究者によっては、春日山古墳石棺の石材も足羽山から産出したものとする見方もある。そうでないにしても、地元に産する石との見方にはかわりない。要するに、越前の石棺の石材はすべて地元産の石材を利用しているのであり、ほかの地方にみられるように、他地方の石棺は搬入されていない。また、越前の石棺はほかの地方へも搬出されていない。



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