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 第五章 転換期の福井県
   第三節 変貌する諸産業
     四 合成繊維への転換
      構造改善事業の開始
 さて、こうした状況のもとで、通産省は紡績、織物業の設備過剰の解消と競争力の強化を目的として、構造改善事業に乗りだすことになる。不況がより深刻であったのは、綿・スフ・毛などの紡績部門であり、同部門では、繊維旧法の失効後の一九六四年(昭和三九)六月に公布された「繊維工業設備等臨時措置法」(繊維新法)によりスクラップ・アンド・ビルド方式による過剰精紡機の廃棄が制度化され、また六五年一〇月からは独占禁止法に認められた不況カルテルがはじめて実施された。日本紡績協会ではこの不況カルテルの実施と並行して、過剰設備処理の実効化を通産省に求めたが、通産省では、織物産地からのナイロン不況対策を求める声にも呼応するかたちで、六五年一二月、とりあえず六六年度に中小繊維構造整備対策として転廃業のための紡織機の買上げを予算化することを決め、さらに五か年にわたる構造改善事業の実施について繊維工業審議会に諮問を行った(『通商産業政策史』6、『日刊繊維情報』66・1・8)。
 六六年九月に提出された答申は、織物業の構造改善について、産地ごとに産地組合を設けて、それぞれの特性に応じた産地構造改革計画を策定し、これに対して政府が助成措置をはかることを勧告した。自民党内に繊維対策特別委員会(福田一委員長)が設置され、一二月には同委員会で構造改善対策の推進が決議された。これをうけて翌六七年二月には六七年度構造改善予算の閣議決定がなされた。七月、「中小企業振興事業団法」および「特定繊維工業構造改善臨時措置法」(特繊法)の成立により、紡績業および織物業(六九年度より染色整理業・メリヤス製造業が加わる)の構造改善事業がスタートした。当初、六七年度から五か年間の事業計画であったが、その後七三年度まで期限が延長されるとともに、七四年度からは「繊維工業構造改善臨時措置法」(新繊維法)による第二次構造改革事業として、事業が長期的に継続されることになった。なお、七〇年度から撚糸業・輸出縫製業など五業種、七一年度から細幅織物業が、中小企業近代化促進法にもとづく構造改善事業を開始し、七四年度から新繊維法にもとづく事業に移行した。
 簡単に絹人繊織物に関する事業の骨格について述べておこう。事業の内容は、(1)設備の近代化、(2)過剰設備の処理、(3)企業の集約化、(4)取引関係の改善、(5)商品・技術開発、(6)市場開拓、(7)労務対策で、その中心は(1)〜(3)である。当初の計画によれば、
  (1)五年間に一二八八億円(絹人繊五一〇億円)を投入して織機約一七万四〇〇〇
    台(同六万五〇〇〇台)のほか、準備工程、仕上工程の設備および共同施設等の
    ビルドを行う。具体的には各産地組合が、ビルド資金のうち新設の中小企業振興事
    業団から六割を金利三%で、都道府県から一割を無利子で融資をうけ、残り三割は
    自己調達(金融機関からの借入)により調達する。ビルド設備は各組合員にリース
    する形式をとり、この設備について税制面の優遇措置をはかる。
  (2)事業完了時の設備過剰を一二万六〇〇〇台(絹人繊四万五〇〇〇台)とみなして
    、転廃業者からの申請により標準物一台一〇万円で、やはり新設の繊維工業改善
    事業協会が買い取り、国は協会に対しその半額を補助し、残りは協会に対する業界
    分担金によりまかなう。これによる廃棄を約三万台(同一万二〇〇〇台)と見込ん
    だうえで、残り九万六〇〇〇台については、(1)のビルド設備を新設するさいに、そ
    の条件として一台の新設に対して通常廃棄分一台に「上乗せ」して〇・五台から〇・
    六台の廃棄を義務づけ、その処理経費についてはやはり国が協会を通じて産地組
    合に対して半額補助を行う。
  (3)零細過多の産地構造からの脱皮をはかるため、量産織物は約一〇〇台、特殊織
    物は約五〇台を適正織機台数として、企業のグルーピングを行う。所要資金は全
    額組合の自己調達となるが、その一割に相当する金額を国が市中金融機関へ預
    託して借入資金とする。
となっており、零細・小規模機業の転廃業またはグルーピングを促進することにより、効率の悪い過剰織機を廃棄し、高生産性を実現することが、本事業の主たる目的であった(児玉清隆「織布業構造対策について」『化繊月報』、松山久次関係文書)。
 福井県では、六七年五月、県絹人繊織物工業組合、県綿スフ織物工業組合、西陣毛織工業組合福井支部、麻織物工業組合福井連絡所の四組織が合併して県織物構造改善工業組合が発足し、理事長に寺腰正信が就任した。六月には構造改善事業のアドバイザー機関として福井県繊維工業構造改善指導援助委員会が設置され、また地区別に説明会が開かれ、事業参加希望者に対して六七年度の計画書の提出が求められた。特繊法の施行にともない通産省のヒアリングが開始され、一〇月に福井産地の全体計画および初年度計画が通産大臣により承認された(松山久次関係文書)。一一月二四日以降、全織機の移動が禁止され、一二月から事業実施のための具体的検討が開始された。



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